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記録⑤ 東から来る鳥達

アメリア軍の行動は最速とも言えるモノだった。


現状ローシアと最も近い本土に、空母、戦艦の派遣が決定され、勝利は確定──


日夜、テレビやラジオの放送でそう叫んでいたので間違いはない。



そして隠岐基地では、大半の面子が入れ替わった。


毎日トラックと船が往復し、

顔見知りだった兄ちゃんは荷物を纏め、

騒がしかった寮舎は静かさと綺麗さを取り戻した。


「レコ助、お前は本土に戻らないのか」

「オル爺、俺が戻ったら誰が掃除するんだ?」

「ガハハハッ、いっちょ前に言いやがるッ」


この時のことはよく覚えている。


俺は興奮していたのだ。


画面の向こうでしか戦争というモノを見たことがなく、


胸にぶら下げたカメラで撮影できることに喜びさえ覚えていた。


「そろそろ時間だな」


滑走路でカメラを構える俺。


後方の隊員たちも歓声を大きくしている。


「全く物好きな奴らだ」

「そういうオル爺だって見に来てんじゃん」

「ワシは基地に乗り込んでくる馬鹿共の顔を拝むためよ」


隠岐基地には新規に3部隊が配属されることになった。


敵対するソブエト連邦から近い場所というのもあり、


アメリア軍の中でも精鋭が来るのではないかというのが噂だ。


「んで、オル爺はどう思う?」

「ワシにとっちゃ誰でもヒヨッコよ」

「黙れクソジジイってまた言われっぞ」


ッピィィィッ────


と潔い音がひびく。


黒点が上を見上げれば2つ。


眼を凝らせば鳥の形をしている。


「ツバメか」

「形だけでよく分かんな」

「ジジイの功って奴じゃよ」


大燕は鮮やかに着地する。


降りてくるのはフライトジャケットに身を包んだ青年。


糸目タラシ中尉。

音を立ててヘルメットを外し、

見えた素顔は細めイケメンな好青年だ。


「嬢ちゃんは記者かいな」

「いや、写真を撮りたがりの清掃員だ」

「なら、向こうの写真の方がオススメやで」


指をさすは空。


そこには隼の影が1つ。


「きっと儲かるで」


海風に煽られたのか隼は左右に揺れている。


「あの馬鹿、スピードが出すぎだぞッ」


誰かが叫んだ時にはもう遅い。


「おい、鳥足が逝ったぞッ」

「消防車呼んで来いッ」

「獣医班もだッ」


隼は地面を擦り、

翼は熱を帯びて発火。


慌てて駆け付けた消防車から回復薬が放水される。


「こんな、小さな飛行場に降りれるかッ」


パーマ・オチャラ・ケータ中尉。

短髪の青年はヘルメットを投げ飛ばす。

本人曰く、クールな赤髪パーマは汗で輝きをみせていた。


「どけどけどけェッ」


そこ乱入するは歴戦の大鷲。


雑な着陸は地上の光景などお構いなしだ。


「おい馬鹿、どこ見てんだよッ」

「滑走路をほっつくな、雑魚が」


トリノ・アグレッサー大尉。

風貌は黒髪無精ひげのおっさん。

実は、先の戦争からエースを名乗る古強者である。


この出会いは自分にとってのターニングポイントとなるわけだが。


そんなおっさんとの出会いは、


「あァ? なに撮ってんだァ餓鬼」

「あッ? なんだおっさんの癖に」


最悪の一言に尽きた。


◇◆◇


場所は代わって、翼納庫


翼納庫は様々な種類の鳥に溢れていた。燕、隼、鷲とさながら大鳥の博物館である。


ただでさえ狭い仮設翼納庫はむさ苦しい匂いと、えも言われぬ鳥たちの緊張感に支配されていた。


そんな中で整備を行う男が一人。


「あれ? 事故った兄ちゃんか」

「パーマだ、嬢ちゃん」


パーマ少尉は見慣れぬ機械を整備していた。


「おもしれー機械だな」

「ああ、コイツは万能時計つってな」


万能時計は水晶玉が付いた腕時計だ。


水晶玉には、速度計、高度計、時計が表示され、空で飛ぶにあたって命の次に重要なアイテムである。


「いろんな数字が浮かんでる」


水晶玉を覗き込んだ感想である。


「コレがないと方角も分からず、最悪、帰ってこれないって話でな」

「そんな便利なものあるのに落ちたのか」

「痛いコトゆうなよ、おい」


アレは風に煽られたからであってというのが本人の弁だ。


余談だが、隠岐基地の滑走路は大鳥が風で煽られにくいように設計はされている。


それでも海風や気候によって難着陸な基地というのには変わりないらしい。


「それより、基地のねーちゃんの連絡先とか知らない?」

「生憎、知り合いの大半が基地から移動になってな」

「そいつはないぜ、嬢ちゃん」


パーマ少尉にとっては、着陸より美人のほうが優先のようだが。


「子供に頼らず自分で頑張れよ」

「要塞を崩すには足元からだぜ」

「今日も足元すくわれてたしな」

「マジで手厳しいな、嬢ちゃん」


彼が女の話ばかりをするのは、子供との触れ合った経験の少なさによるものだ。

本人はいたって真面目にあたりさわりのない会話をしようとしている。

彼が元居た基地の野郎とはそれで仲良くもなったらしい。


それを知らない今の俺にとっては、彼は女好きな少尉で固定されるのであった。


「おっと、隊の集合時刻か、じゃあな嬢ちゃん」


◇◆◇


一人が去ってまた一人が現れる。


俺の後方に立つのはまた別の人物。


「ふん、エロガキが」

「なんだ、おっさんいたのか」


おっさんこと、トリノ大尉である。


「小娘、作業の邪魔だ」

「おっさん、清掃の邪魔だ」


「「あ゙ッ⁉」」


「いい気になるなよ小娘」

「そっちこそいい歳したおっさんのクセに」


どうも大尉とは相いれない何かがあるようだ。


もしかしたら前世からの敵かもしれんと思いつつ、にらみ合っていると、


外部から仲裁の声が入る。


「隊長、そこまでにしてくださいッ」


「ちっ、ツウか」


トリノ隊二番機、ツウ・パイ

ダークな黒色のショートヘヤー。

荒っぽい隊長とは違い、良識のある女性である。


「まだ基地のチェックも済んではいないハズです」

「だが俺達にいつ命令が飛ぶかも分らん」

「それもそうですが」


大鳥は2人1組で飛ぶ。


掩護と攻撃を分担することで、戦闘を有利に進める為である。


逆に3機以上では意思疎通が難しく、現在の最小単位は2機となっている。


「最善の準備をする。それがパイロットの第一則だ」


そいうとおっさんは俺を翼納庫から追い出し、作業を続ける。


日が暮れても翼納庫の明りは消えることがなく、

隅の小部屋は朝になっても明りが付いたままであった。


えっ? 掃除?


勿論、全てトリノ大尉のせいにして、掃除は全てしなかったが?

バレて翌日、怒られた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字報告があると作者が喜びます。

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