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 体育祭まで、あと数日。二年六組では、応援のシンボルとして、ダルマのオブジェを作成。かなり大きいが、ダンボールが主体で中身も空洞のハリボテなので、見た目よりも軽い。完成したダルマは体育館に保管され、あとは当日に出すだけなので、主だった準備は全部終了した。

 そして、体育祭が終わると、すぐに中間テストである。普段の授業は淡々と進み、試験範囲に伴う課題も、徐々に増してきていた。

「つまり、この三角形を見ただけじゃ、解けないんだ。だから、ここに補助線を引くんだよ。そうすれば、角CADは九〇度になるだろ? あとは自分でやってみな」

「なんだよ、龍一。最後まで教えてくれよ」

「甘えるな、彰。結局は自分で解かないと身に付かないんだよ」

 放課後、まだクラスメイトがまばらにいる教室で、龍一は彰に数学の課題を教えていた。どうしても解けないというので、泣きつかれたのである。どれも、これまでの授業内容で解ける問題なのだが、彰は不満たらたらであった。

「だいたい、なんで体育祭前に、こんなモノたくさん出すんだよ。勘弁してほしいよな?」

 同意を求めてきたが、応じることはしない。彰とは小学時代からの友人で、蛍同様、ずっと同じクラスである。ゆえに彼の性質も理解しており、ここで適当にでも返答をすると、面倒な絡まれ方しかされないと理解していたからだ。

 龍一の無反応に、彰が抗議しようとしたところ、

「お、こんな時間まで勉強? がんばってるわね」

 蛍が声を掛けてきて、二人の様子を見る。

「彰、あんたこのままじゃ、ヤバいんじゃないの? 数学だけじゃなく全教科の底上げを狙ってくようにしないと」

「う、うっせーな。俺は本番に強いタイプなんだよ。蛍だって、そこまで良い方じゃないだろ?」

「あら、言うわね。でも、心配してもらう必要はないわ。あたしだって、がんばってるんだから」

「な、何だ? その余裕な態度……まさか試験に対する秘策でも――」

「あ、龍一。それ終わったら、また後でね」

 彰の妄言を無視した蛍は、龍一に別れを告げて去っていった。この後、トマリギで合流する予定である。

(稗田くんに勉強を見てもらった成果なのかな……)

 勉強法や試験範囲といった要点を、稗田から教わったことが、蛍の自信に繋がっているように見えた。もともと、直感力といったものに優れている蛍なので、本質を見定めることができれば、あとは自然と結果が付いてくるタイプであった。

 そんな蛍も、家庭問題には為す術がない。もちろん、蛍の責任ではないのだが、どこまで尾を引いてしまうのか、龍一もせつなく感じ始めていた。


 蛍の背中を見届けて、視線を彰に戻そうとした龍一は、その途中で、西園寺と目が合ってしまった。彼女も目が合ったことに気づいたようで、お互いに変な間が生まれてしまう。

 西園寺は、カバンを提げて帰る態勢を取っている。龍一は一応、笑顔で手を振って、別れの挨拶をアピールすると、彼女は一瞬戸惑った後、早足で教室を出ていった。

 何のことはない、一場面。それを見た彰は、なぜか心配そうに問いかける。

「なあ、龍一。知ってるか?」

「いきなり何だよ」

「あくまで一部の男子が言ってるんだけど」

「だから何だよ」

「お前が、女子とばかり話していてムカつくって」

 小学時代から、そういう話は出ていた。蛍と雪、それに栞とその女友達とも話をしていたので、冷やかしは絶えなかったが、龍一は特に気にしない性質だった。

 だが年代が進むにつれ、一部の輩には攻撃色が点灯するのも事実なのだろう。

 だからといって、西園寺への挨拶すら許さないというのは、癪に障る。

「一応、聞いておくけど、その一部には彰も入っているの?」

「そ、そんなわけないだろ! 変なこと言うなよ」

「僕としては、誰が言っているのかが、非常に気になるんだよね。そうは思わない?」

「そ、それは……」

 さすがに龍一も、彰が発信源だとは思っていない。そのような陰険な気質を持ち合わせていたら、とっくに友人関係など破綻している。

 あくまで彰が龍一を心配しての情報提供。そう捉えれば、好意的に受け止められるだろう。

 このまま、彰に密告の真似事をさせるのも酷と判断し、龍一は本質を突くことにした。

「話している女子っていうのは、蛍と雪のことを言っているの?」

「いや、まあ、そう……だな、うん」

「彰だって蛍と、よく話すじゃないか。自分の身は心配じゃないのか?」

「へ、変な脅し方するなよ。俺は、ほら……雪さんとは全然話さないし」

 つまり、双子同時に仲良くしているのが気に入らないということか、と龍一は内心で呆れた。

 最近では、三人での登校を解消しようという考えはなくなっていた。仲の良い友達の輪による自然な姿だと説明もつくし、何より龍一自身、この三人での時間をできるだけ共有したいと思うようになっていた。

 そして、こういう男女間を傍から見ると、様々な想像を働かせる人も出てくる。興味本位で聞いてみた。

「それで? 僕と蛍と雪の関係は何だって聞いているの?」

「まぁその、いわゆる……三角関係ってやつ?」

 彰が、数学の図形問題に一瞬目を落とす。そこから連想しての言葉だったが、龍一が眉を顰めるには、十分な効果があった。

「だ、だから俺が言ってるんじゃないって! 中には、どんな三角形の形をしてるんだろうなとか、そんな話ばかりなんだよ!」

 気の利いたことを言ったつもりの彰だったが、しどろもどろになって混乱しているだけだった。龍一も虚脱感に見舞われ、何もやる気が出なくなり、数学の課題も強制終了させた。

 帰る準備を始めた龍一は、いろいろと教えてくれた彰に、お詫びも兼ねて一つの返礼をする。

「どんな三角形の形をしているのかって話だけど……」

 カバンを提げた体勢になって、彰に教えた。

「正三角形だよ」


(続)

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