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 雪が来るまで、調理経験の皆無な龍一だったが、掃除と洗濯は、これまで几帳面に、こなしていた。しかし、これからの洗濯に関しては、全面的に雪が仕切ることとなった。

 いつものように、洗濯籠の中身を洗濯機へ入れようとした龍一は、雪の下着をつかみ、その場面を雪に見られてしまった。お互い、赤面しながら、しばし沈黙した後、洗濯は龍一の分も含め、雪に任せるということで、話がまとまったのである。

 ハプニングも絶えないが、こうやって徐々に役割分担が決まっていくことは、パズルのピースが形になっていくような充実感があった。

 そして、これも役割分担になりつつある、朝の出迎え、二日目のこと。

「おはよう。準備できてる?」

 今日は、自分からチャイムを鳴らしてきた蛍が、二人に登校を促す。

 昨日と同じ三人での登校。蛍はこれを、日常の再現と言うが、これを新たな日常にしたがっているような気配がある。

 青空の下を歩む蛍は上機嫌だった。


 ホームルームが終わってからも、蛍は不機嫌だった。

「なぁ、蛍。さっきから何をそんなに怒っているんだ?」

「怒ってなんかないわよ」

 なぜか、蛍の態度が刺々しくなっている。

 教室内なので、あまりしつこく追究もできない。

 登校中とは打って変わった態度に、龍一も戸惑い、何が原因なのかと考えているうちに、一時限目の英語の授業が始まってしまった。


 一時限目の終わった休み時間。昨日同様、龍一と蛍は、手洗い場で報告を行う。不機嫌な蛍が素直に付いてきてくれて、龍一は安堵したが、いまだに蛍の感情がわからない。

「僕が、蛍の気に障るようなことでも言った?」

 慎重に話す龍一に、蛍が溜め息を吐く。

「気にしないで。もう済んだことよ」

 そう言うと蛍は、踵を返して、教室に戻り始めた。

 龍一は驚く。蛍は、龍一の発言を否定しなかった。つまり、龍一が蛍に言った何かが気に障り、それが不機嫌の原因だということである。

 さくら荘を出てから、教室に入るまでの間の会話。その中に原因があると考え、思い出す。その間の話題は、美術に関する事柄が中心だった。


 今日の三時限目と四時限目は、龍一と蛍のクラスで美術の授業があること。

 明日の一時限目と二時限目が、雪のクラスで同様。

 昨日は画材道具の補充に、雪と文房具店で買い物をしたこと。

 蛍が、雪の画材道具のことに気づき、今日の放課後に持っていくと言ってきたこと。

 雪が、龍一から道具一式を借りることになっているからと言ったこと。

 だから龍一は蛍に、持ってこなくてもいいよと言ったこと。


「ねぇ、蛍。もしかして、雪の画材道具のことを断ったことに怒っているの?」

 回想から心当たりを抽出した龍一は、蛍の身を硬直させた。

 すでに二人は教室の自分の席に戻り、小声で話している。

「確かに以前、言っていたね。荷物を運ぶのは、雪のためにやっていることだから、遠慮するなって。僕らは蛍に気を使って画材道具の件を済ませちゃったけど、それが蛍のプライドを傷つけたっていうことなら、謝るよ。悪かっ――」

「気にしないでって言ったでしょ? もうこの話は、おしまい。ほら、授業が始まるわよ」

 やんわりと、だが強引に打ち切られたため、この件は、完全に手仕舞いとなった。

 蛍の怒気は、プライドから来るものではない。もっと自己中心的なものである。

 もう少し距離を縮めたい――それが叶う機会がほしいだけだった。ゆえに、蛍の内心は今でも、くすぶっている。

(持ってく荷物がないと、龍一の部屋に行けないじゃない……)


(続)

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