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ダークチョコレート  作者: Jloo(ジロー)
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地底の食神

挿絵(By みてみん)


 それは、永きに渡り語り継がれてきた伝承だ。

 大穴の底には食神様がいて、落ちた人間をその罪と一緒に喰らうという。

 自ら身を投じれば、現世の罪が洗われて天国に行けると信じられていた。


 今日もまた、一人の少女が落ちていく。

 彼女は不貞の子であり、産まれた時から罪を背負っていた。


「産むべきでは、無かった」


 幼い頃から、呪いのように掛け続けられた言葉。

 彼女自身も罪を自覚し、その穢れを祓う瞬間を待ち望んでいた。


 やがて、大穴の底に身体がぶつかる。

 即死は免れない高さだったが、奇跡的に少女は生きていた。

 彼女が周囲の様子を窺うと、化け物たちが辺りを囲っている。


 大穴の底には、食神様なんていない。

 そこにいたのは、かつて炭坑夫として強制労働を強いられた罪人たちだ。

 彼らは、豊富な栄養素を含む岩石の採掘に駆り出された。

 だが後に、その岩石には奇形を生み出す成分が含まれていたことが発覚する。

 責任を問われることを恐れた責任者は、慌てて採掘場を閉鎖した。

 だが何人かの炭坑夫は予兆に気づかず、そのまま採掘場に閉じ込められる。

 出口はダイナマイトにより崩落しており、脱出することは不可能だった。

 幸いだったのは、ここには栄養のある食べ物が溢れていたことだ。

 彼らは生きるために、近くにある岩石を片っ端から貪り食った。


 だが、そんな事情を少女は知るよしもない。

 彼女は、ここにいるのが食神様であると疑わなかった。

 だからこそ「私の罪を、取り除いてください」と、懇願したのだ。


 化け物たちは、その言葉を聞いて首を横に振る。

 その時の少女の絶望は、計り知れなかったであろう。

 泣きつく彼女に化け物は、「君に、罪などない」と呟いた。

 そして彼らは、無言で歩き出す。

 他に縋るものなど何も無い少女は、その跡を追い走り出した。


 やがて辿り着いたのは、暗闇の中にぽっかりと開いた空間だ。

 そこには幾つもの削られた岩が並べられており、そこが墓地だとすぐに分かる。


「大穴に落ちて、生き残ったのは君が初めてだ」


 そう言って化け物が指差した先から、小さな光が漏れ出していた。

 どうやら、外の世界と繋がっているらしい。


「俺たちは、もう外には出られない。だが、君は外に出て生きるべきだ」


 化け物たちは、再び暗闇の向こうへと去って行く。

 自分が罪人だと信じて疑わなかった彼女にとって、この新たな現実は受け入れがたいものだ。

 だがやがて覚悟を決めたように深く息を吐くと、静かに光に向かって歩き出した。

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