第三章 其ノ弐
「あの、一つ質問いいですか?」
渡されたペンダントをポケットにしまいながら基子は聞いた。
「はい?」
佐々木は不思議そうな表情で基子を見つめる。
「吸血鬼って、一体なんなんですか?」
その質問に佐々木は固まった。そして、恐る恐る聞き返してくる。
「えっと、それをどこで?」
「恭平から聞きました」
「あー、そうですよね。妹さんのことご存知でしたもんね」
「はい」
佐々木は顎に手を当てると、難しい顔をしてしばらく考え込んでいた。
そして、大きく息を吐き言った。
「わかりました。全てお話ししましょう。立ちながらもあれなんで、そちらの部屋でお話しします」
基子は前に宴会をやっていた部屋に案内された。
どうぞと座布団を勧められ、そこに腰を落とす。
「ちょっと待っててくださいね。今、お茶持ってきますから」
そう言うと佐々木は襖を閉め、廊下へと消えていった。
基子は部屋を見まわした。
畳の数を数えてみる。
八畳の部屋が二つ。
真ん中を敷居で仕切られているが、今は襖は取り払われていた。
そこを跨ぐように大きなテーブルが三つ並んでいる。
基子が座っている部屋とは別の部屋の奥には床の間が備え付けられていた。
大きな牡丹の花が描かれた掛け軸。
その横には小さなかごに入った見たこともない生花。
この島で採れた花なのだろうか。
恭平に連れてこられた時には全く気が付かなかった。
ただ、知らない人ばかりで周りを見る余裕がなかったと言えばそれまでだが。
「牡丹の花言葉ってなんだっけ……」
ぽつりとひとりごちる。
すっと襖が開き、お盆を持った佐々木が部屋に戻ってきた。
「ああ、掛け軸の牡丹を見てたんですね」
コトンと目の前に白い湯呑みを置かれた。
薄緑色の液体から、ゆらゆらと湯気が立ち上っている。
基子は独り言が聞かれていたことが恥ずかしくて俯いた。
お茶に口をつけてもいないのに、顔だけ火照るのを感じた。
「えっと、確か牡丹の花言葉は『高貴』とかだったと思います」
佐々木はそう言いながら基子の前に回り腰を落とした。
「あ、そうなんですね」
恥ずかしさを誤魔化すように、いそいそとお茶を一口啜る。
口内から喉元を通り抜け、じわっと液体が胃に収まる感覚が妙に鮮明に感じた。
すると、お腹が小さく「くう」と鳴いた。
「ああ、そう言えば朝食もまだでしたね。宿に戻ったらすぐになにか作りますね」
再び恥ずかしくて下を向く。
今度の顔の火照りは、お茶を飲んだことによって体温が上昇してしまったせいだと思うことにした。
佐々木も自分の横に置いたお盆から湯呑みを手に取り一口啜った。
「では、早速先程の話の続きをしますね」
基子はふうと小さく息を吐くと、こくりと頷いた。




