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#魕ガ棲ム島  作者: YasuAki
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第二章 其ノ伍拾伍

その前に、新居も決めなきゃだね。お姉ちゃんの住んでるところはそんなに大きくないから出るとして、恭ちゃんってまだ実家だっけ?」


——ああ、そうか。全部この女が悪いんだ。円香さんが死んだのも、基子がおかしくなったのも、村の人達が殺されたのも。全て、全てこの女のせいだ。


「ねえ、恭ちゃん。聞いて——っ!」


 ぷつりと頭の中で何かが切れる音が聞こえた。

 血の匂いが鼻腔を刺激した。


「恭……な、なんで……」


 先程まで耳元で響いていた黄色い声音がぷつりと途切れた。がくんと恭平の肩に彼女の体重がのしかかる。


「あああああああああああああ——」


 腹の底から声なき声が湧き出した。

 雲の隙間から漏れ出る月明かりに照らされた左手が、赤黒く染まっている。


「どうして。どうして……」


 薫によって円香が目の前で殺された。

 殺した本人は、嬉しそうに抱きついてきた。

 恐怖や悲しみという感情は、すぐにどこかにたち消えた。代わりに、怒りと憎しみが身体を支配した。

 力なく垂らしていた手は、いつのまにか彼女の腹部に突き刺した。

 普通の人間の力では到底できることが無い芸当。

 恭平自身もわけがわからなかった。

 ゆっくりと薫の腹部から手を引き抜くと、ぬぷぬぷと臓器が擦れる音がした。

 腕に伝わる生温く柔らかい感触。

 再び涙が頬を伝う。

 しかし、薫は吸血鬼だ。

 この怪我すら治せてしまうのではないだろうか。

 恭平のなかに僅かな疑問が生まれた。

 彼女を地面にそっと横たわらせると、真っ赤に染まった左手を見た。


——一体どうなってるんだ?


 怒りによって引き起こされた謎の力。

 もちろん恭平は自分のことは普通の人間だと思っている。


——純粋な心と激しい怒り……


 某漫画のような展開に、もしかしてと男の子ながらの変な期待が膨らんだのか、にやりと口角が上がった。

 すると、みちみちと薫の身体から音が聞こえた。

 ふとそちらを見やる。穴が空いたはずの身体がものすごいスピードで塞がっているところだった。


「マジかよ……」


 恭平は焦った。

 このままでは再び彼女が目を覚ましてしまう。

 村人を惨殺し、円香をも手にかけた殺人鬼。

 地面に落ちた銃を慌てて拾い、頭に向けて照準を合わせた。


——そもそも銃で撃って殺せるのか?


 南台所神社に向かう山道では、佐々木の撃った猟銃は効かなかった。

 頭部ではなく、腹部ということもあったが、恐らく部位は関係ない気がした。


——なにか、なにか方法が……


 キョロキョロと周りを確認する。キラリと光る大きな鉈が視界の端をかすめた。

 恭平は歓喜し、それを地面から引き抜くと、横たわる薫の首元めがけて振り下ろした。

 そして、首に刃がぶつかる寸前にピタリとその手を止める。


——何をしてるんだ俺は……


 わなわなと身体が身震いした。

 カランと地面に鉈を捨て、ガクンと膝を落として項垂れる。


——なんで……


 恭平は自分が分からなくなっていた。

 円香を殺されたことにより引き起こされたと思われる謎の力。

 何より、簡単に人を——薫を殺そうとした自分の思考。

 恭平は混乱したまま頭を抱えた。

 すると、目の前で横たわっていた彼女がむくりと起き上がった。


「基子っ!」


 恭平は咄嗟にそう声をかけ、ガシッと肩を掴んだ。しかし、彼女が薫である可能性が脳裏をよぎり、すぐに身体が強ばった。


「ん……うん?」


 彼女はどこか眠そうに瞼を擦っている。


「基子……なのか?」


 恐る恐る聞いてみる。


「えっと……きょ、恭平?」


 キョロキョロと辺りを見回している。


「ねえ、ここどこ?」


 その一言で、恭平の緊張が一気に解けた。


「よかったあ」


 安堵のため息を漏らすと、嬉しさのあまりか基子を強く抱きしめた。


「ちょっ、ちょっ待っ! 恭平!」


 突然のことに焦る基子。

 ジタバタと暴れている。

 それでも尚、基子のことを離そうとしない恭平。

 基子はそんな恭平から何かを感じ取ったのか、抵抗することをやめ、恭平を抱きしめ返した。

 そして、何も言わずにポンポンと背中を優しく叩く。

 しばらくして、恭平はゆっくりと基子から離れた。


「ところで、いったい何があったの?」


 再び辺りを見回す基子。


「ねえ、あれ何?」


 何かを発見したのか、じっとそちらを見つめている。

 彼女の目線の先には、祠の後ろに積まれている村人たちの人頭があった。

 咄嗟に体を張って視界を遮る。


「え、えっと、なんでもないよ。そ、それより基子、体は大丈夫か?」


「体? って、えっ! な、何これ!」


 基子は自分のお腹の辺りを見た。

 真っ赤に染まった白いTシャツ。

 その中心は、裂けるように破けている。


「ちょっと、なんなのこれ!」


 怪訝な表情をこちらに向け基子は言った。

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