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#魕ガ棲ム島  作者: YasuAki
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第二章 其ノ伍拾肆

「しかし、付け焼き刃の鬼の力にしちゃよくできてるね」


「あんたこそ、思いっきり地面に叩きつけたのになんでなんともないわけ?」


「これでも柔道段持ちなんだよ」


 円香はにやりと笑ってみせた。


「あ、そう」


 言葉を吐いた瞬間、薫のほうから飛び出した。

 円香の手前で大きく上に飛ぶと、そのまま踵落としを浴びせる。


「ぐっ!」


 辛うじて両腕でガードしたものの、勢いを殺しきれず地面に片膝を着く。

 そして、薫は着地と同時に空いた脇腹目掛けて足蹴りを放った。


「があっ!」


 円香は大きく弾き飛ばされた。

 ゴロゴロと転がりながら、祠の後ろに積まれていた頭蓋の塊にぶつかる。

 その拍子に、塊はボーリングのピンのように弾け飛び崩れ落ちた。


「そういえば、あんたの力もあたしと同じようなものなんでしょ。一体どうやってその力を使ってるの?」


 薫は円香に近づきながら、地面に突き刺さったままの鉈を片手で軽々と引き抜き言った。

 ペッと唾を吐き捨て、円香はゆっくりと立ち上がる。

「戦う巫女さんはなんでもできるんだよ」


「ふーん。まあ、どうでもいいんだけどとりあえず死んで」


 地面を蹴り、手に持った鉈を円香目掛けて振り下ろす。


——くそっ!


「ちょ、ちょっと待った!」


 恭平は藪から飛び出した。ホルスターから銃を抜き、銃口を薫の背中に向ける。


「えっ!? きょ、恭ちゃん?」


 突然の登場に動きを止めた薫は、振り返りキョトンとしている。


「どうしてここにいるの?」


 首を傾げ、怪訝な表情を浮かべ恭平に問う。


「い、いや。たまたま散歩してて通りかかって——ってそんなことはないか」


 こんな時間にこんな山奥まで散歩をする人間がいるはずがない。混乱して訳のわからないこと言っている自分に、ついツッコミを入れた。


「もしかして、わざわざ私に会いにきてくれたの?」


 そして、相変わらず自分の都合の良いように解釈をして嬉々とする薫。


「そ、そんなことより、武器を捨てろ!」


 銃のグリップを持つ手に力が入る。

 嫌な汗が背中を滑り落ちる。


「武器? ああ、これのことか」


 そう言って薫は手に持っていた鉈を振り回した。

 それと同時に何かが宙を舞った。


「えっ?」


 そしてそれはぼてっと地面に落ちると、コロコロと面白そうに転がった。

 薫は鉈を地面に突き刺すと、ゆっくりとこちらに近づいて来る。


「さあ、恭ちゃん。こっちで二人の結婚式のことについて決めようよ」


 嬉しそうな表情を浮かべる薫。

 恭平の顔からは血の気が一気に引いた。


「邪魔者はいなくなったし、ゆっくりと話ができるね」

 

 言葉を失いただ呆然と立ち尽くす。

 恐怖心なのか、それとも悲しみなのか。引き金にかかった指すら、金縛りにあったかのようにぴくりとも動かせなかった。

 やがて目の前まで彼女が来ると、自然と目から涙がこぼれ落ちた。


「恭ちゃん、そんなに嬉しかったのかな? 私も、恭ちゃんとおんなじくらい嬉しいよ!」


 薫に力強く抱きしめられる。

 力が抜け、だらりと垂れ下がった手から、持っていた銃がトサっと地面に落ちた。


——な、なんで。


 涙で滲んだ恭平の目には、頭部を無くした円香の身体が静かに佇んでいるのが写った。


「結婚式もそうだけど、新婚旅行はどこ行こっか。そうそう、私、一度海外に行ってみたいんだよね。ヨーロッパも素敵だし、アメリカもいいかも」


 彼女の弾んだ声が耳元に響く。


「近場でアジア圏でもいいけど、やっぱり清潔なところがいいかな。ほら、私こう見えて綺麗好きでしょ? トイレとかお風呂とか汚いとちょっと無理だし。まあ、恭ちゃんがどうしても行きたいって言うなら我慢はするけど……」


 いくら鬼の力があろうと、頭と身体が離れてしまっていては超回復もできないだろう。

「鬼も不死身ではない」と円香が言っていた。


「そうだ! 新婚旅行も兼ねて、海外で結婚式挙げちゃうのもいいかも」


 吹き抜ける風が、地面に転がり落ちた円香の髪をさらさらと靡かせた。

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