第二章 其ノ伍拾弐
恭平たちは島の内側にある内輪山、丸山の麓に向かった。
太陽はすでに眠りにつき、代わって月が辺りを照らしていた。
「円香さん、そういえば、どのあたりに車停めます?」
街灯もない細い山道をくねくねと曲がって、やっと平らなところに出た。
「キャンプ場だな」
「わかりました」
丸山の麓にはキャンプ場と東屋がある。
東屋の方が丸山を登るのに近いのだが、すぐ目の前が地熱の噴気孔群で開けた場所となっていて、山の上から丸見えだ。
祠が山頂のどの辺に位置するのかは恭平は知らない。ただ、見つかりやすい場所に車を停めるのは奇襲のために夜を選んだ意味がなくなってしまう。
しばらくなだらかな道を進むと、「ふれあいサウナ」と書かれた立札がニョキリと地面に足を生やしていた。
そこを通り過ぎると、今度はすぐ左手に大きな案内板が現れる。
「キャンプ場案内」と書かれたその看板の横から、敷地内に入り車を停める。
二人は車から静かに降りると、荷物をまとめ、そのまま東屋に向けて歩き出した。そして、東屋手前から森の中に足を踏み入れる。
「ここからしばらく獣道だよ」
恭平はこくりと頷くと、前を進む円香に習い、姿勢を低くした。
丸山自体はそんなに大きな山ではない。山頂までは気をつけて行けば迷うこともない。
しかし、空に漂う薄雲たちが、時折月の視界を遮った。鬱蒼と生い茂る木々たちの輪郭がわからなくなる。
すると突然、円香が右手を広げ静止の合図をした。
恭平は慌てて歩を止める。
「なんだい、鹿だね」
そう言ってため息を吐いたのか、円香の肩が大きく下がった。
きっと食料でも探しに来てたのだろう。
野生の鹿はこちらの存在に気がつき、慌てて森の奥へと逃げていった。
再び歩き始める。すると、すぐに鳥居が見えてきた。
夜とはいえ、見た事のある景観に少し安堵する。
小さな階段を静かに上り、最近立て替えられた真新しい鳥居をくぐる。その奥には、子供の身長程ある変わった形の石が祀られていた。
そして、その石に寄りかかるように小さな木の鳥居が二つ重なって並べられている。
「ところで円香さん、その祠ってどの辺にあるんですか?」
ここまでは観光客でも来ることができる。しかし、神事等で度々島に手伝いに来る恭平ですら、ここまでしか来たことがない。
「この奥だね。ここからは神域だから、念の為お参りしていくよ」
そう言って円香は御神体であるその石に向かって祝詞を唱え始めた。
傍から見ると、軍服を着た女性が一般人では到底覚えているはずもない言霊をつらつらと述べている姿はかなり不気味に映るだろう。しかも、暗闇の中で灯りも点けずにぶつぶつと立つその姿は、まるで丑の刻参りにでも来た女性か何かだと勘違いされてしまいそうだ。
「さて、行こうか」
そんな事を恭平が考えていると、いつの間にか祝詞を唱え終わった円香が石の向こう側へと歩を進めた。
「あっ、はい!」
出遅れて恭平もその後をついていく。




