第二章 其ノ参拾玖
「なんだ、恭平もいたのか」
そう言ってひょっこり顔を出したのは佐々木だった。
手には猟銃を抱えている。
「えっ? 叔父さん?」
なぜ彼がここにいるのか。
困惑した恭平は思わず彼女を抱き寄せた。
「ところで恭平。そいつは死んだのか?」
「えっ? 死んだって……一体どう言うことだよ!」
この状況を見て、感情のない言葉を投げかける佐々木。呆気にとられるも、段々と怒りが込み上げてきた。わなわなと肩が震える。
「どうもこうもないんだよ!」
しかし、先に佐々木の方が声を荒げた。突然のことにびくっとたじろぐ。
「そいつがなにしたかわかってるのか? 村人を殺して回ってたんだぞ!」
「村人を?」
事切れた彼女を見つめる。
確かに基子は薫でもある。
しかし、村人を殺して回っていたのは恐らく薫のほうだ。
ついさっきまで楽しそうにはしゃいでいた基子ではない。
「だからって——だからって殺していいわけないだろ!」
今度は恭平が咆哮した。
キッときつく佐々木を睨みつける。
「い、いや、そうだが、そのまま放っておけるわけもないだろ」
恭平の怒りに当てられ慌てる佐々木。
「なんでだよ、なんでなんだよ。なあ、基子……返事をしてくれよ」
涙が頬を伝い、ぽたりと彼女の頬に落ちた。
佐々木はその場にへたり込み、手に持っていた猟銃をとさっと落とした。
再び肉塊になってしまった彼女を強く抱きしめる。
そして、堰を切ったように泣き叫ぶ。
「基子……っく、ご、ごめんよ。俺の……俺のせいで——」
こんな場所に連れてくるべきではなかった。
「探しに行こう」と言い出した彼女を止めて、大人しく宿に留まっていれば、佐々木と遭遇したとしても話し合うことが出来たはずだ。
悔しくて拳を握りしめた。
すると、彼女の体がぴくりと動いた。
「も、基子?」
恭平は驚き、抱きしめていた腕をゆっくりと解放した。
「んっ……」
彼女は顔を歪め、薄く瞼を開けた。
「基子っ!」
目を見開き彼女を見つめる。
すると彼女はごほごほと咳き込み、右手で自分の口元を押さえた。
「基子、大丈夫か!」
彼女はこくんと小さく頷いた。
「良かったぁ。って、良くない! めちゃくちゃ血だって出てるし、早く病院行って治療しないと!」
どうやら急所は外れていたようだ。気を失っていただけなのだろう。
咳き込む彼女の背中を摩っていると、Tシャツの内側の何かがはらりと取れた。
「きゃっ!」
咄嗟に胸を隠す彼女。
「基子っ! どうした?」
彼女はにんまりと笑みを浮かべた。
口元についた血の痕が不気味さに拍車をかける。
「恭ちゃんの、エッチ」
「えっ?」
その言葉で全身が痺れたように硬直した。
——なんでこのタイミングで……




