第二章 其ノ参拾陸
道は白く舗装されたY字路に差しかかった。
そのまま左の綺麗な道を進む。
「あれ? ここって右じゃないの?」
肩越しの基子の声が聞こえた。
「ああ、右に行っちゃうと基子が遊んでた玉石階段の方に出るんだ。こっちはその迂回路」
段々と傾斜がキツくなる。
ペダルを漕ぐ足もそろそろ限界だった。
「あ、あれは遊んでたわけじゃなくて、つるつる滑って危ないから、たまたまあの格好で——」
「基子、一回降りれるか?」
「って、ん? どうしたの?」
「さすがにこっから先の傾斜で二人乗りはきつい」
キキィとブレーキをかけて停止する。
きしっと車体が浮いた。
「それにしても、なかなかな急坂だね」
基子は自転車から降りると、恭平の横に立ち道の先を眺めていた。
二人の目の前に続く坂道は緩やかに右に折れていて、先は見えない。
「よし行くか」
恭平も自転車から降りると、ハンドルを持って転がしながら歩きだした。
その後を基子がついてくる。
「なんか、こういうのって懐かしいね」
からからと軽快に回る車輪の音に混ざるように基子が言った。
「懐かしいってなにが?」
「昔は二人でよく遊んでたじゃない」
基子は小走りで恭平の横に並んだ。
「あの頃に戻りたいかって言われたら嫌だけど、それでも恭平が横にいてくれたことは、すっごく良かったって思う。うんうん」
「なんだよ急に。頭でも打ったか?」
基子の顔色を伺いながら聞いた。
どこから楽しそうに見える。
「たまには恭平に感謝しなきゃかなって思ってさ」
「なんだそれ。たまにはじゃなくて、いつも感謝してくれよ」
「うん——そうだね」
そう言って基子は立ち止まった。
恭平は自転車のブレーキをかけると、振り返り聞いた。
「どうした?」
彼女は俯き黙っている。
どこからただならぬ雰囲気が漂っていた。
恭平は自転車と共にバックして彼女の横に並んだ。
「大丈夫か? 調子でも悪いのか?」
その顔を覗き込む。
すると、基子はすっと顔を上げてにこりと微笑み言った。
「うん、大丈夫。さぁ、行こうか」
そしてすたすたと歩きだす。
「あ、おい。ちょ、まっ!」
その後を急いで追いかける。
しばらく進むと、少し開けた場所に出た。
恭平は自転車を停めるとガチャンとスタンドを立てた。
「ここまで来ればあと少し」
基子の様子を伺うように声をかけた。
そして彼女は「うん」と小さく一言。
すると草葉の陰でガサガサと物音がした。
基子はびくっと肩を震わせ、恭平の後ろに隠れた。




