第二章 其ノ参拾肆
床に散らばった資料や本を足で掻き分けて、佐々木のデスクの引き出しから自転車の鍵らしきものを手に取り基子の元に戻る。
「ほれ」と渡すと「おお」とそれを感慨深げに眺めていた。
じゃりじゃりと音を鳴らして裏手に回り、駐車場の一角にある駐輪スペースに向かう。
「これが赤い彗星ちゅんちゅん丸だよ」
基子は自転車の鍵を開けると、サドルにまたがりハンドルを握って得意そうに言った。
「お前、たまにわけのわからないこと言うよな」
呆れ顔でぽつり。
「わ、わけわからなくないし! 名前あった方が愛着だってわくし!」
基子はそう言いガチャンとスタンドを蹴ると、地面を蹴りながらバックして駐輪場から自転車を出した。そして、すすっとサドルから荷台に移った。
「愛着って、乗るのはこの島にいる間だけだろ」
空いたサドルに恭平が跨る。
ハンドルを握って、ペダルに足を掛けて気がついた。
——まじか、ギアないじゃんこれ。
ため息を一つ。
すると急に両肩を掴まれもみもみと揉まれた。
「なんだよ急に」
「いや、凝ってるんじゃないかなと思ってね」
基子はにひひとどこか楽しそうに笑っている。
実際、恭平の体は疲れていた。
——まったく。
「それより、しっかり捕まれよ」
そう言ってペダルを力いっぱい踏む。
「うわっ! ちょっと、急に走り出さないでよ!」
もみもみと動いていた手が、がっしりと恭平の肩を掴んだ。
「振り落とされるなよ!」
砂利の駐車場から舗装された道路に出る。
ぐんぐんとスピードを上げ……るつもりが、すぐに登り坂になって失速した。
「頑張れー恭平ー」
荷台で面白そうに恭平の肩を叩く基子。
「頑張れって、結構きついぞこれ——」
息も絶え絶え言葉を漏らす。
「降りて後ろから押そうか?」
「いや、もうちょっと頑張るさ」
とその時、段差にタイヤを取られ、車体ががたんと大きく揺れた。
「きゃっ!」
基子の悲鳴とともに、不意に抱きつかれる。
「基子、平気か?」
内心、色んな意味で心臓がばくばくと音をたてていた。
平静を保つために一つ深呼吸をする。
「平気だけど、びっくりした」
「ごめん。ちゃんと前見えてなくて、段差があるの気がつかなかった」
「やっぱり、降りて押そうか?」
「大丈夫。もう少しだから」




