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#魕ガ棲ム島  作者: YasuAki
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第二章 其ノ弐拾玖

 寝ている基子を待合室のソファーに寝かせた。

 倉庫からブランケットを取ってきて、体の上にふわりと被せた。

 そこでふと、おかしなことに気がついた。


——服が、ほとんど濡れていない?


 白衣の赤黒い汚れは恐らく返り血だ。

 ただ、それ以外に濡れた様子はない。

 外はずっと雨が降っていた。

 しかし、集会所には傘が残されていた。

 ここに来るまでに乾かしてきたのか?

 そうであれば着替えてしまったほうが早いだろう。

 では、なぜ?

 恭平が寝ている間に誰かに連れ去られたのではなく、彼女が一人で出ていったのでもない。


——傘を持ってきた誰かと、一緒に出ていった。


 そうなると、今度は目的がわからない。

 寝ている恭平を起こすことなく黙って出ていってしまう理由が。

 幸せそうに眠る彼女の顔を覗き込む。

 胸の内のもやもやが心臓をキュッと締め付ける。

 起こさないように頭を優しく撫でると、長い黒髪がさらさらと音を立てた。


——ここでこのまま寝かせておくこともできないけど……


 外で何が起きてるかわからない以上、一人にさせるのは危険だ。

 とはいえ、起こすのも勇気がいる。

 恐らく基子の中には二つの人格がある。

 恭平が昔から知っている「猿渡基子」と、吸血鬼の力を持つ妹の「源薫」

 人格が別れるのは、幼い頃の虐待やそれに似た辛い経験がトラウマとなって起こることが多いと聞いた。

 初めて基子に出会ったのは幼い頃だ。

 恭平の知る限り、出会ってから一度もトラウマになるような出来事はなかった。

 ただ、両親は事故で亡くなったと聞いてはいたが、もしかしたらその出来事が——


「う、うーん……」


「基——」


 恭平は声をかけようとして言葉を飲み込んだ。

 万が一にも薫が出てきたらまずい気がしたからだ。

 自分自身に危害は加えないだろうと思うものの、再び外に出て罪もない村人達を殺しに行かれても困る。

 緊張が体を硬直させた。


「うーん……えっと、ここどこ?」


 むくりと起き上がった彼女は、目をこすりながらきょろきょろと辺りを見回している。

 そして、ソファーに座り直し言った。


「あっ、恭平。おはよう」


「お、お前、基子か?」


「えっ? 何言ってるの。朝から意味わかんないんだけど」


 まだ眠たいのか、瞼を閉じてぼーとしている。


「よかったー」


 ほっと胸を撫で下ろす。


「それより、ここどこ? 今何時?」


 時計を探しているつもりなのだろうか。

 キョロキョロと辺りを見回しているが、瞼は閉じたままだった。


「叔父さん家だよ。今はえっと、もうすぐ一時になるな」


 恭平は腕時計を見て言った。


「えっ、もう一時! 寝過ぎたかぁ——って、やばい。お昼食べなきゃ!」


 かっと目を見開き、慌てた様子でソファーから立ち上がる基子。

 ブランケットがふぁさりと床に落ちた。


「お昼食べなきゃって。起きたばっかりでよくそんなこと思えるな」


「だって、せっかく旅行に来てるのに、美味しいもの食べなきゃもったいないじゃない!」


「そうかもしれないけど。まぁ——さすがだな」


 呆れた様子で恭平は言った。


「ん? さすがって何が?」


 不思議そうな表情を浮かべ基子は返した。


「なんでもない」


「なんでもなくなくない! さては恭平、私のことを馬鹿にしているでしょ!」


 恭平の肩を掴み、基子はずいっとその顔を寄せてきた。

 距離の近さに思わずそっぽを向く。


「い、いや、そうじゃなくて」


——なんで寝起きでこんなに元気なんだよ。

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