第一章 其ノ陸
次第に緩やかになってきた道をのんびり進んでいると、今度はT字路にぶつかった。右も左も道幅は狭く、どちらに行くか悩む。
——よし。左だ!
直感で選んでみたものの、基子はこちらの道にしたことを後悔した。先程よりも上り坂がキツくなってきたこともそうなのだが、何より、やたらとお墓が増えてきたのだ。
「こういうの苦手なんだよなぁ……」
気分重く独りごちりながら進む。さっさと通り過ぎたいが、坂のせいでペダルも重い。
やっとのことでお墓地帯を抜けると、今度は道がY路に別れていた。左の道は下り坂になっていたが、明らかに今までよりも道幅が狭い。これは行ってはいけないやつだと本能的に判断をして、素直に右に曲がる。
いつのまにか緩やかになった道を進んでいると、今度は次第に視界が拓けてきた。何かの設備なのだろうか。左右の地面に緑色のシートが敷かれている。しかも、かなりの広さにそのシートは敷かれていて、中に入れないように道脇には有刺鉄線が張られていた。悪いことをしているわけではないのに、なんとなく入ってはいけないところに入ってしまった面持ちになって、胸の奥がキュッとなる。お墓地帯とは違った緊張感が漂い、早く通り過ぎたいと思いながらペダルを漕ぐ。しかし、基子はすぐにキュッと急ブレーキをかけた。続く道の先には行き止まりが見える。ただ、そこにたどり着くにはスキーのジャンプ台のような坂を下りなければならなかった。
視界良好、左右に有刺鉄線。先へ進む道は急な下り坂。一歩間違えたら、血塗れ必至だ。
基子は「うん」と頷くと、くるりと踵を返して来た道を戻り始めた。
ふわりと柔らかい海風が基子の前髪を揺らした。目線を少し上に上げ、飛び込んできた景色にはっと息を飲む。結構な高さを上ってきたのだろう。空と大地の間に海が混ざっていた。
しばらく自転車をカラカラと押しながら歩いていると、左側に道をみつけた。
——あれ? 確かこの道を通って来たはずだけど……
きっと、自転車を必死に漕ぎすぎていて見落としたのかもしれない。別れ道の手前で止まり、考え込む。ちらっと腕時計を見ると、もうすぐお昼だった。意識がお腹に向かう。なんとなく空いてる気がする。
基子は「よし!」と小さく呟き、自転車に股がって元来た道を引き返した。