第二章 其ノ弐拾肆
玄関の軒下では、基子が傘を畳んで待っていた。
「大丈夫?」
そして、心配そうに聞いてくる。
「平気だって。それよりも、基子は早く着替えなきゃだな」
基子は「うん」と小さく頷くと、傘を玄関の壁際に立てかけた。
恭平は玄関の扉に手をかけた。
すると、カラカラと簡単に開いた。
あの後佐々木は集会所の鍵を閉めずに家に戻ってきたのだろう。
鍵がかかってるかもしれない可能性を失念していた恭平は、むしろ開いていたことに安堵した。
二人は靴を下足箱にはいれずに脱ぎ捨てると、そのまま上がり框を登った。
今度は右の部屋ではなく左の部屋に向かう。
襖を開けると、宴会をしていた部屋同様に畳が敷きつめられていた。
恭平は静かに中に入り、基子も後に続く。
恭平は奥にある押し入れを開けると、ガサガサと物色しはじめた。
「あった!」
衣装ケースから白衣と緋袴を取り出す。
そして、手に持ったまま基子の方に振り返ると「はい、これ」とそれを手渡した。
「え、えっと、これに着替えるの?」
困惑の表情を浮かべ聞き返す基子。
「これしか着替えがないからさ。コスプレみたいで嫌だろうけど、風邪引くよりはマシだろ」
「そうだけど……は、袴って履いたことないし」
「じゃ、着替えるの手伝おうか?」
「えっ! だ、大丈夫……ってなに言ってんの、馬鹿! 変態!」
基子はぷくっと頬を膨らませ、顔を赤くしてそっぽを向いている。
「そ、そこまで怒ることかよ……」
頭を掻きながら呟くと、基子の胸元に目がいった。
——そうだった……
本人が気がついていないはずがない。
恭平は逆に恥ずかしくなって、基子から視線を逸らした。
「そ、外に出てるから、着替え終わったら声かけて」
そう言うと、そそくさと廊下に出て、ピシャリと襖を閉めた。
へにゃへにゃと力が抜けその場に座り込む。
大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせていると、コンコンと襖の縁を叩く音がして、中から基子の声が聞こえた。
「恭平、すぐそこに居てよ。ト、トイレとか行かないでね」
いつもの調子に、思わずぷっと吹き出した。
コンコンと返して言う。
「ここにいるから安心しろって」
「う、うん。ありがとう」
辺りはしんと静まりかえっていて、微かに聞こえるのは衣擦れの音だけ。




