第二章 其ノ弐拾弐
恭平は安心してふうと小さく息を吐くと、そのままゆっくりと抱きかかえ、部屋の真ん中にある畳まで運んだ。
そして、畳の上に静かに横たわらせる。
「全く、どこ行ってたんだよ」
居住まいを正すように座りながら独りごちた。
そして、顔に光が当たらないように気をつけて懐中電灯をコロンと置いた。
恭平は静かに眠る彼女を眺めた。
白いTシャツはところどころ黒ずんでいて、雨に濡れたのか、ピッタリと肌に張り付いている。
そのせいでボディラインが強調され、目のやり場に困った。どうやら下着もつけていないようだ。
恭平は視線を暗闇へと向けた。
わずかに漏れ出る懐中電灯の光が、圧倒的な黒に塗りつぶされている。
——暗いな。
さすがに懐中電灯の光だけでは心許ない。
恭平は基子を起こさないように静かに立ち上がると、部屋の入口からマッチを拝借して蝋燭に火をつけた。
畳の四隅の蝋燭に火が灯り、赤く柔らかい光がゆらゆらと辺りを照らしている。
恭平は懐中電灯を入口の方に向けて置き、基子の横にゴロンと寝転んだ。そして、綺麗に整ったその横顔を見つめた。
長い黒髪は畳の上で無造作に広がっている。
規則正しく上下する腹部が、彼女の存在を確かなものにしている。
恭平は無意識に基子の髪を撫でていた。濡れた髪は手に張り付き、少しひんやりとしていた。
「……う、うん」
基子は顔を顰め唸ったと思うと、ゆっくりと目を開けた。
「恭……平?」
「基子! 大丈夫か?」
恭平は上体を起こすと、基子の顔を覗き込んだ。
自分の影が彼女に重なり、微かに表情が読み取りづらくなる。
基子はこくんと小さく頷くと、口元を少し弛めたようだった。
「無理しないで横になってろと言いたいところなんだけど、そのままだと風邪引いちゃうから、どこかで着替えた方が—— 」
もちろんここに着替えはない。
かといって、宿まで戻るのも時間がかかる。
恭平がなにかいい方法がないかと頭をフル回転させていると、神事で使う服が集会所にあったのを思い出した。
「集会所の押し入れに、円香さん達が使ってた巫女さんの服があるから、一旦それに着替えよう! 確かドライヤーもあったはずだし、髪の毛も乾かせると思う」
恭平の提案に基子は困惑したものの、こくりと小さく頷いた。




