第二章 其ノ弐拾壱
恭平は昨日の軌跡をなぞるようにして大里神社の集会所に向かった。
集会所に着くと、裏手にまわり倉庫の前に立った。
鉄の扉は少しだけ開いていて、地面には赤黒くなったシミが雨に濡れてぼんやりと滲んでいた。
——円香さんは叔父さんが移動させたのかな。
彼女を放置したまま薫を追ってしまったことを今更ながら悔いる。
自分の幼馴染の亡骸を土砂降りの中運び出すのはどんなに辛いことだったか。想像しただけで胸がぎゅっと締め付けられた。
恭平は傘をたたみ、鉄の扉の淵に手をかけた。ギギギと鈍い音をたて開く。
室内の電気は消えていたが、夜とは違いうっすらと中の様子が窺えた。
パチンと壁にあるスイッチに触れる。チカチカ蛍光灯が灯った。
電気がついたことを確認すると、持ってきた傘を壁際に立てかけて足早に階段を下りた。先にあるもう一つの扉を開け、坑道のような通路も急ぎ足で抜ける。
やがて、暗闇が現れた。
恭平は佐々木の家から持ってきた懐中電灯をつけると、自分の足元を照らしながらその闇に飲まれていった。
本来、懐中電灯の光を照らしてここに立ち入ることは許されない。
円香曰く、自然と共にあるこの島の神聖な場所に、機械的なものを持ち込むのはうんたらかんたらだそうだ。
しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。
恭平は基子がここに囚われてると思ってやってきた。
そして、薫の用事とは……恐らく、姉である基子の排除。
薫からしたら、姉がいることで想い人である恭平が自分のものにならないと考えるだろう。であれば、基子を殺してしまえば、その問題は解決する。
普通なら、想い人を振り向かせるためにライバルを殺すというのはありえないことだ。しかし、薫は吸血鬼。そもそも人間の倫理観を持ち合わせてはいない。実際、漁師の齋藤さんたち家族は、いとも簡単に殺されていた。確証はないが、交番のお巡りさんも……
「基子ー。どこだー!」
恭平は大きな声を出して呼びかけた。しかし、言霊は虚しく部屋の壁に反響してうわんと唸った。
ちょろちょろと流れる水の音が、静けさの輪郭を更に浮き彫りにする。
「……ここじゃないのか」
ぽつりと言葉が溢れる。
この場所に人が隠れるところなどないことは百も承知だった。それでもただ——
「何かあると思ったのにな」
すると、背後からざく、ざくっと足音が聞こえた。
恭平は慌てて音のする方に懐中電灯の光を向けた。
「基子! 基子なのか!」
大きな声で叫ぶが応答はない。
やがて、光の輪の中に人影が一つ収まった。
「も、基子! 良かった! 無事だったか!」
そこには、恭平が探し求めていた姿があった。
ふらふらと肩を揺らしながらこちらに近づいてくる。
今にも倒れそうだ。
恭平は急いで基子に駆け寄った。
「基子!」
ガシッと肩を掴むと同時に、基子の体からガクンと力が抜けた。
恭平は慌てて抱き締めた。
「基子! 大丈夫か!」
顔色を窺うために体を少しのけ反らせる。
基子はすうすうと小さな寝息を立てていた。




