第二章 其ノ拾玖
佐々木は唇を噛み、ゆっくりとその口を開いた。
「カミソウゼを受ける人間が、神様に取り込まれる事態のことだ」
「神様に取り込まれると、どんなことになるのさ」
佐々木は再び俯く。
「神様の怒りを買い、暴走した神様に攻撃される。運が良ければ、助かるかもしれないが、運が悪ければ……」
「でも、取り付いてるのって女だろ。攻撃っていったて、たかが知れてるじゃないか」
相手が弱い女性なら、力負けすることも少ないだろう。ただ、巫女だけでなく、一緒に社人や神主といった男性がいた場合だが。
「人間は誰しも力をセーブしてる。例えば、恭平がむしゃくしゃして壁を殴ったとしよう。自分の体が傷つく程の力では殴らないだろう? 神様に乗っ取られることによってそのタガが外れたらどうなるとおもう? 自身の損傷も顧みず、持てる力で襲いかかられたら男でもひとたまりもないぞ」
つい数時間前のことを思い出した。
確かに薫の力の前で恭平は無力だった。
「——なるほどね。本来は数人掛かりでやるのが普通だったのに、円香さんが優秀すぎたから一人に任せてしまった」
佐々木はこくんと頷く。
「そして、神様は自然災害と同じなんだ。だから、円香はお務め中の事故死になってしまう。かっこよく言うと、殉職だな」
——アレが自然災害?
「じゃあ、薫はどうすることもできないってこと? このまま野放しにするしかないってこと?」
薫と意思疎通はできていた。そして、彼女自身は自分のことを吸血鬼と言った。
何かが食い違っている気がして、恭平は再び佐々木に聞こうと思ったところ、逆に質問された。
「ところで、さっきからお前が言ってる薫って誰なんだ?」
訝しげに問われる。
ごくりと唾を飲み込むと、恭平はゆっくりと言った。
「薫は……基子の双子の妹だよ」
「妹? なんで彼女の妹がこの島にいるんだ?」
「それは……わからない」
恭平は何も知らない。薫に言われた情報しかわからない。基子とは長い付き合いだが、妹の存在すらも知らされてなかった。きっと、恭平には言う必要はなく、その程度の付き合いだったのだろう。それはそれで、やるせなかった。
「その、薫って子に何かあったのか?」
「円香さんを殺したのは基子じゃない。薫なんだ」
事態を全く飲み込めていない佐々木は、少し困惑したように言った。
「どういうこと?」
恭平はひとつひとつ思い出しながら、整理するようにゆっくりと言葉を並べた。
「まず、円香さんが祭壇から逃げてきた。その後を薫が追ってきて、円香さんを刺し殺した」
「恭平が集会所に戻ってくる少し前のことか」
「そう。そして、俺は彼女の後を追って村に戻ろうとした。そしたら、途中で物音が聞こえて。名前は忘れちゃったけど、大里神社から村に抜ける道のすぐ手前の家」
「あそこは——漁師の齋藤さん家だな」
「その齋藤さんの家で薫が暴れていたんだ。俺は藪に身を潜めて薫が出てくるのを待って、出てきたところ彼女を呼び止めた」
「いや、それは危ないだろ! 仮にも円香を殺した人物だろ!」
慌てる佐々木。恭平は首を振って言葉を続ける。
「この時は自分も彼女は基子だと思ってたから。説得できる、というか話くらいは聞いてくれるだろうと思ってた。それに、実際話はできた。話はできたんだけど——」
首元がジクリと疼いた。咄嗟に手でそこを覆う。




