第二章 其ノ拾捌
「叔父さん、これってなにかな」
その場にしゃがみ込んで資料を見ていた叔父に歩み寄り聞いた。
「どれどれ——」
佐々木は資料を棚に戻しながら立ち上がると、恭平から黄色い本を受け取った。
真剣な表情で前後のページを繰っては戻ししながら見ている。
「なるほどね。実に興味深い」
「なんて書いてあった?」
恭平が聞くと、佐々木は絵が描いてあるページを開き、恭平の方に見せながら指差し言った。
「まずこれは鬼憑きを封印する儀式『封印の儀』だそうだ」
「鬼憑きを封印する?」
「そう。ただ、ここには宝暦七年に執り行ったとしか書いてない。もう少し読み進めれば方法も……ほう」
「やり方も載ってた?」
佐々木は首を横に振りながら言った。
「残念ながらやり方は書いてないな。ただ——」
「ただ?」
言葉を濁す佐々木にその先を促す。
「仮説通り、首を刎ねて処刑したと書いてある」
「……そっか」
がくりと肩を落とし項垂れる恭平。
「と言うか、鬼憑きのことは今は関係ないだろ。それよりも、猿渡さんを元に戻す方法を探さなきゃだ」
佐々木はそう言うと、パタンと本を閉じて恭平に手渡した。
それを受け取りながら、佐々木が薫の存在を知らないことを思い出した。
「叔父さん、そういえば薫って知らないよね? 源薫って名前なんだけど」
「源薫? そんな名前の人は知らないなぁ」
再び資料探しをする佐々木は、本の背表紙を指と目で確認しながら言った。
「源か——そう言えば八丈島の知り合いに、そんな名前のやついたな」
「本当に! どんな人?」
食いつくように恭平は言う。
「おいおい、どんな人って、高校の同級生だぞ」
「叔父さんの、高校の同級生……」
「ああ。確かすごく綺麗な人だった。話したことはないが、クラスで噂になってるのを耳にしたことがあってな。なんか知らないけど、円香が嫉妬してたのを覚えてるよ」
昔のことを思い出してか、佐々木はくつくつと面白そうに笑っている。
「そっか……ところで、円香さんのことなんだけど——」
自分の幼馴染の死は、佐々木にとっても辛いことだろう。
「恭平——いいんだ」
恭平の肩に手を置きながら、声を震わせて佐々木は言った。
恭平は何が良いのかわからなかった。「えっ?」と一言だけ声を漏らし困惑した。
——いいわけないだろ。
次第に胸の奥がざわつき始めた。わなわなと唇を震わせ、息を大きく吸い込む。そして、今の感情を爆発させようとした瞬間、ガバッと抱きしめられた。突然のことに吐き出そうとした言葉はぷすぷすと音を立てて霧散し、恭平は再び困惑した。
「大丈夫なんだ。彼女もお務めを全う出来て、今頃は天国で誇らしく思っていることだろう」
——お務め?
「い、いや、叔父さん。言っている意味がわからないんだけど」
佐々木を無理やり引き剥がす。すると、泣いていたのか、つつつと雫が頬を伝った。そして、涙を拭いながら佐々木は言った。
「円香はお祓いもそうだし、カミソウゼで失敗することもなかったからな。お前に手伝ってもらっていた時も、危なげなく終わらせてたんじゃないか」
「危なげなくって、そもそもそう言うものだろ」
佐々木は首を横に振った。
「円香が優秀すぎたんだ。昔は失敗も多かったらしい。ただ、お前と同様に、俺も村のみんなも円香を信じきってしまっていた。本当は危険なこともあるってのに、それを忘れていた……」
「危険なことってなんだよ」




