第二章 其ノ拾漆
恭平は佐々木の家に戻ると、急いで事務所に向かった。
「なんだ、恭平か。脅かすなよ」
事務所の入口を開けようとしたところ、階段の踊り場から何かを警戒している佐々木に声をかけられた。
「叔父さん、なんでここに戻ってきてるんだよ!」
薫がここにくる可能性は高いはずだ。それなのに佐々木は二階に続く階段の上にいる。
「ああ、ちょと気になることがあってな。それよりも、猿渡さんは見つかったのか?」
「基子は……」
俯き言葉を濁す。
佐々木も「そうか」と残念そうに呟く。
「ところで、叔父さんの気になることって?」
恭平も同じように気になることがあってここまで戻ってきたのだった。
階段をゆっくりと下りながら佐々木は言った。
「集会所には入ってきた猿渡さんの様子がおかしくて、すぐにお祓いが失敗したと思ってな。ただ、円香に限って今までそんなことはなかったからさ……それで、うちに置いてある資料に、なにか書いてないかなと思って戻ってきたんだ」
「それで、資料はあったの?」
恭平の横を通り過ぎ、佐々木は事務所のドアを開け中に入った。その後に続くように恭平も中に入る。
「いや、それが見つからなくてだな、今探し回ってるところだ」
佐々木は本棚に向かい、端から背表紙を覗き込んでいる。
「探し回るって、資料は事務所か叔父さんの部屋にしかないだろう。ましてや、二階は客間しかないし……」
入口に立ったまま恭平は言った。そしてふと、なぜ佐々木が二階から下りてきたのか疑問に思った。
「叔父さん、なんで上にいたの?」
特に深い意味があった訳ではない。軽い調子で言ったつもりが佐々木には糾弾しているように捉えられたのか、焦るように恭平の方に振り向くと慌てた様子で弁明した。
「いや、ち、違うんだ。これはその、もしかしたらなにか手がかりになるものがあると思って、け、決してやましい気持ちがあったとかそういう事は断じてなくてだな……」
「叔父さん、何言ってる——ってもしかして」
訝しげな表情で佐々木を見つめる。ズボンの右前ポケットには「マスターキー」と書かれた木札がプラプラと揺れていた。
「いや、だから……すまん」
察した恭平は大きくため息をついて言った。
「いくらなんでも、俺の幼なじみの泊まってる部屋に勝手に入るとかって」
「だから、そう言う訳じゃなくてだな。その——」
気まずそうに目を泳がせている佐々木の言葉を遮り恭平は言った。
「とりあえず、今は資料を探そう。そう言えば叔父さん。昨日、図書館から借りてきた本ってどこにある?」
「あ、ああ。そうだな。昨日借りてきた本は、デスクの上に置いたままだけど」
恭平はそれを聞き、デスクにつかつかと歩み寄る。
デスクはきちんと整理されていて、目的の本は端の方に回覧板と一緒に置かれていた。
黄色い本を手に取ってぱらぱらとページを繰る。
昨日見た獣人戯画のような絵が描かれたページで手を止めた。
「鬼が村人を襲っているところか……」
ひとりごちりながら次のページをめくる。
達筆すぎる文字の羅列。
恭平にはなんて書いてあるのか全く読めない。
しばらく文字を斜めに眺めながらページを繰っていると、再び絵が描かれたページが現れた。
「なんだこれ……」
そこには祭壇のような物が描かれていた。
祭壇の真ん中には、前のページで村人を襲っていた鬼が手を後ろに組んで正座をしている。
そして、その祭壇を囲むように、装束のようなものを着た人々が数人。




