第二章 其ノ拾陸
「警視庁八丈島警察署 藍ヶ島駐在所」と書かれた交番に着くと、傘を畳みながら入り口手前の小さな階段を登った。くるくると生地を丸め、ぱちんとバンドを留めて中の様子を伺う。
「すみません。誰か——っ!」
恭平は目の前に飛び込んできた、凄惨な状況に息を呑んだ。
赤いペンキでもぶちまけたかのように壁や天井にまで血が飛び散り、血塗れのデスクの椅子には自分の頭を大事そうに抱えた、首のない赤黒い死体が行儀よく座っていた。
服装からしてここに駐在していた警察官だろう。
再び吐き気が込み上げてくる。
恭平は急いでその場から離れると、道の脇にしゃがみ込んで吐いた。
とはいえ、数時間前に胃の中は空っぽになっていたため、出てくるのは胃酸のみ。
ないものを吐き出そうとする胃の収縮に苦しみながら、薫の行動がわからなくて困惑していた。
警察官であれば、薫にとって「邪魔」になるのは理解できる。しかし、恭平が休んでいた家でもそうだったが、なぜか死体は椅子に座らされている。
殺すだけなら殺してそのまま転がしておけば手間はないはずだ。しかし、薫は死体をきちんと椅子に座らせている。
彼女にはそうしなければならない理由があるのか。
心の奥にゆっくりと不安が染み込んでいくように、降り続く雨がじんわりと衣服を湿らせている。
——狂ってる。
恭平は立ち上がると、手に持っていた傘を開き村の中心部に向かって歩き始めた。




