第二章 其ノ拾壱
「私は……恭ちゃんと一緒になりたかっただけだよ」
薫は目を逸らし、顔を赤らめモジモジと恥ずかしそうに言う。
「一緒に?」
言っている意味がわからなくて、恭平は眉をひそめた。
「そう、一緒になりたかっただけ。その、夫婦に——きゃっ!」
手で顔を覆い、ふるふると体を揺さぶる薫。
「そんなことのために——お前は、円香さんを殺したのか?」
恭平は怒りのあまり戦慄き、射抜くように薫を強く見つめた。
「恭ちゃん、そんなにじっと見つめられると、その……恥ずかしいから」
薫は手の隙間からチラチラとこちらの様子を伺っている。
「お前は、本当に——」
怒りに任せて彼女を押し倒したところで、力では敵わないことは昨日抱きつかれた時にわかっていた。
『吸血鬼』というのが本当であるのならば、人外の能力を持ち合わせていてもおかしくはない。
恭平は込み上げてきた怒りを無理やり押し殺し、小さく深呼吸をした。
「恭ちゃん! 私は『お前』じゃないよ! 薫だよ!」
先ほどまで恥ずかしがっていた薫が、プクッと頬を膨らませ怒りだした。
これが基子であれば、どんなに愛おしいことか。
——冷静になれ自分。今だけは、冷静に。
心の中で言い聞かせる。
「わ、わかった。じゃあ薫、ひとつ質問いいいか?」
「なに?」
名前を呼ばれたことが嬉しかったのか、頬を引っ込ませ満面の笑みを浮かべる薫。
「薫はどうして円香さんを殺したんだ? それと、基子は今どこにいる?」
「円香さん? あぁ、あの巫女さんのことか。うーん。特に恨みがあったわけでもないけど、強いて言えば、邪魔だったからかな」
「邪魔だった?」
「そう。私のこと封印しようとしてたから殺したの」
「封印?」
一体どういうことなのだろうか。
恭平の顔が曇った。
「ほら、私って吸血鬼でしょ。折角お姉ちゃんのおかげで復活できたのに、あの巫女さんがまた岩屋の奥に閉じ込めようとしたから力を使っただけだよ。って言っても、あの程度の力じゃなんてことはないんだけどね。所詮は人間。たかが知れてるから」
薫はくつくつと面白そうに笑っている。
「そ、それでも殺す必要はなかったんじゃないか——」
俯きながら言葉をこぼす。
薫はキョトンと間の抜けた表情を浮かべると、すぐに破顔した。
「恭ちゃん、面白いこと言うね。今まで人間が私たち吸血鬼にしてきたことを考えれば、こんなこと大したことじゃないのに」
「今までしてきたこと?」
訝しげな表情で見つめると、薫は笑うのをやめて真っ直ぐとこちらを向いた。
「そう。この島の人間が、私たち吸血鬼の一族にしてきたこと」
恭平はごくりと生唾を飲み込んだ。
少しずつ明るくなってきた庭を見ながら、薫は話を続けた。




