第二章 其ノ捌
しばらくすると、髪の長い女性が玄関口から外に出てきた。
——やっぱり、基子か。
手には倉庫で見た時の燭台ではなく、大きな刃物を持っていた。
——な、なんで鉈を......
どこで手に入れたのだろうか。
基子は道に出ると、そのまま村の中へと進んで行った。
——よく分からないけど、このまま行かせたらまずい!
竦む足を奮い立たせ、恭平は薮から飛び出すと基子の後ろ姿に向かって大きな声で呼んだ。
「基子! 待ってくれ!」
基子は動きを止め、くるりと体をこちらに向けた。
白かったはずのTシャツが黒く染まって見える。
そして、基子は無言のままゆっくりと恭平の方に近づいてくる。
ただならぬ雰囲気にびくりと肩が震え後退ったが、唇を噛み締め足に力を入れた。
ここからだと暗くて顔色は伺えない。
「恭ちゃん、こんなところでどうしたの? 風邪ひいちゃうよ?」
じゃり、じゃり、と徐々に大きくなる足音。
「ど、どうしたじゃないだろ。基子の方こそなにがあったんだよ!」
平静を装いながら聞き返す。
手に持っている鉈が月明かりをキラリと反射させている。
すると、足を止め、両手を後ろに組んで不敵な笑みを浮かべてこちらを見つめながら基子は言った。
「別に何もないよ。そうだ! それよりも、恭ちゃんに伝えなきゃならないことがあるの」
基子は無邪気に嬉しそうな表情を浮かべている。
「何もないわけないだろ!」
ついつい声が大きくなった。
「もう、そんなに大きな声出さないでよ。そんなことよりも、大事なことなんだけど——」
「円香さんを殺しといて、そんなことって……」
ワナワナと肩が震えた。
確実に彼女が恭平の目の前で円香を刺し殺している。
怒りのあまり、ぎりりと歯を食いしばると、恭平は基子を睨みつけた。
「あのね、恭ちゃん。私ね、恭ちゃんのことが好きなの」
「はっ?」
気概を削がれ、突然のことに面食らう恭平。
「うん。大好き」
「お前、こんな時に何言って——」
「お姉ちゃんも本当は好きなんだよ。でも、昔から恭ちゃんのこと知ってるから、そうあるべきじゃないというか、家族みたいな感じというか。さっさと素直になっちゃえば良いのにね。あーでも、私の方が恭ちゃんのこと大好きだから、やっぱりあげない!」
楽しそうに話す彼女が不気味すぎて、恭平はたじろぎヒクヒクと顔を引き攣らせた。
「心配しなくても大丈夫だよ。私が恭ちゃんを幸せにしてあげるから」
基子は手に持っていた鉈を地面に置くと、急に距離を詰めてきた。突然のことに肩がビクンと跳ねる。
「そんなに怖がらなくても。恭ちゃんに怖がられると、いくら私だってショックだよ」
耳元で囁かれた。
思わず「ひっ!」と小さく声が漏れる。




