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#魕ガ棲ム島  作者: YasuAki
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第二章 其ノ陸

 傘も灯りも持たずに集会場から飛び出してきた恭平は、基子の姿を探していた。

 暗闇に目は少し慣れてはきたが、天候のせいでやはり視界は悪い。


「くっそ。どこに行ったんだよ」


 独りごちる。

 そもそも、基子の内側にいた神様の目的がわからない。

 なんのために顕現してきたのか。ただ、呼び覚まされて、ただ、怒り狂っただけなのか。

 しかし、それであればあの時に恭平は殺されていたはずだ。そして、彼女が耳元で囁いた「恭ちゃんは殺さないから」という言葉。

 思わず外に出てきてしまったが、がむしゃらに探しても見つからないだろう。

 少し冷静になった恭平は、休戸街かど公園の小さな東家に避難した。

 ベンチに腰掛けて基子が行きそうな場所を考える。

 ポタポタと髪の毛の先から雫が地面に落ちた。


 ふうと一息吐き、心を落ち着かせる。ここで恭平はいくつかの仮説を立ててみた。

 基子の中にいる神様が伝承にある「おつな」だとしたら。

 まず一つは、浅之助との仲を引き裂かれたことへの恨み、もしくは、「鬼憑き」によって排除されたことへの恨みによって村人を殺すということ。

 その当時の人々が生きているかどうかは関係なく、青ヶ島村の住人というだけで殺しの対象ということだろう。

 そうであれば、どう判断したかはわからないが、青ヶ島在住ではない恭平が殺されなかったのもなんとなく納得はする。


 そしてもう一つ「鬼憑き」であるが故に。

 そもそも憑いてる神様が「おつな」ではないということ。

 元々、巫女気に当てられて乱心になった女性に憑く霊は「オボシナサマ」と呼ばれ、その神様の種類は多種多様にわたる。天野早耳者様や新神様といった青ヶ島固有の神様もいれば、神社神道の神様、更には仏教の仏様まで。

 しかも、オボシナサマは一柱とは限らず、稀ではあるが人によってはいくつものオボシナサマが憑くこともあった。

 その稀な例が円香だったのだが……

 オボシナサマが一柱ではない場合、その数に比例して霊力は大きいということになるらしい。

 円香本人にいくつオボシナサマがいるのか聞いたことはないが、佐々木曰く「記録にある限り最多」だそうだ。

 そんな円香が事切れる瞬間が脳裏に浮かんだ。

 彼女は恭平が小さい頃から色々と良くしてもらっていた。

 叔父の家に遊びに来る度に「将来は社人になって、巫女のあたしとこの島を牛耳ろうぜ!」なんて、子供でも考えないことを子供の恭平に言い聞かせてくる。

 そもそも恭平はこの島に住んでいないのだから、巫業(ユタ)に携わろうなどと微塵も考えていなかった。

 しかし、叔父が民俗学の仕事をしてることもあってか、手伝いに駆り出されると大抵が巫業の行事だった。

 今回の霊大祭然り、新年の初運勢(ハチウンチ)を託宣する際の準備だったり、基子が受けたお祓いの際の準備もそうだ。

 勿論、恭平が手伝えない細かい巫業の仕事もたくさんある。

 大人になったからこそ思う。

 こんな小さな村の診療所の先生をしながら巫業までこなして、円香は本当によくやっていた。


——本当に……


 ぐっと唇を強く噛む。

 溢れ出る感情を、今だけは押し殺す。

 恭平はそういえばと、円香のお祓いやカミソウゼの手伝いをしていて、失敗したところを一度も見たことがなかった事を思い出した。

 では、なぜ今回は失敗したのだろうか。

 そもそも、カミソウゼやお祓いの時に何がどうなっているのか恭平にはわからなかった。

 バサバサと大麻を振り回し、なにやら難しい言葉を並べた祝詞を唱える。

 霊感というものが全く無縁の恭平にとって、円香の前でのたうちまわるようにして暴れている女性が、なぜこんなに苦しんでいるのかが理解出来なかった。

 ただ、これはこういうものなんだと思い込むようにしていた。

 儀式が終わると、女性は意識を失いその場に倒れ込み、恭平が集会所まで運んだ。

 集会所に医務室は常設していないため、畳の上に布団を敷いてそこで休ませる。

 そして、目を覚ますまでは医者である円香が様子を見ていた。

 お祓いをして、その後のアフターケアまで一人でこなして。いい加減なところも多々あるけれど、彼女はこの島になくてはならない存在だ。


——存在だった……


 そんな円香を殺して、基子は一体どこに向かったのか。

 側道を外れて山の中を歩くとは到底思えない。

 であれば、村の中に向かった可能性が高い。

 なにしろ彼女の目的がはっきりしていないのだ。

 基子の中の「オボシナサマ」は何を望むのか。

 しかし、大雨の中、暗闇の山に入ることは自殺行為だ。

 村に向かった可能性に賭けるしかない。

 恭平はすくっと立ち上がると、村まで続く暗い道を走っていった。

 降り続く雨は、いつの間にか勢いを弛めていた。

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