第二章 其ノ弍
円香に向こうへ行ってろと言われ、邪魔になるといけないと思った恭平は倉庫まで戻っていた。
相変わらずここは埃っぽくて、よく分からないものがごろごろと転がっている。
——玉入れの籠とか使ってるのかよ。
そもそも、この島の住民は少ない。子供の数もさほど居ない。
床に転がった赤い玉を拾い上げ、恭平は感慨深げに昔を思い出した。
基子の両親は、彼女が小さい頃に事故で亡くなっていた。恭平の記憶では四歳か五歳頃だった思う。
父方の祖父母に引き取られた基子は、祖父母と一緒に恭平の家まで挨拶に来た。
祖母の後ろに隠れるようにして、恥ずかしそうにこちらの様子を伺う基子。
今と同じように艷めく黒髪を垂らし、整った顔立ちはまるで雛人形のように綺麗で、恭平は一目見てすぐに心を奪われた。
元々、恭平自身の親戚も遠方なため、基子の祖父母には前から良くしてもらっていた。
そして、近所に同い年の子が少ないせいもあり、恭平と基子は自然と一緒に遊ぶことが多くなった。
ただ、基子は時折おかしな発言をすることがあった。それは、一人言にしては誰かと会話をしているような口調だった。不思議に思った恭平は「誰とお話ししてるの?」と基子に聞いてみた。それに対して基子は「妹だよ」と笑顔で答える。もちろん、そこには誰もいない。
恭平はテレビの影響か何かで、基子が自分の中にそういう設定を作ったのだろうと思っていた。
小学校に上がると、容姿の良さから基子はすぐに人気者になった。しかし、それをよく思わない女子達に目をつけられ、「あの子、実は男たらしなんだよね」とか、「毎日違う男を取っ替え引っ替えしている」とか、あらぬ噂を立てられ、少しずつと人が離れていった。しかも時折、架空の妹とお喋りをするという不思議ちゃんを炸裂させ、高学年になる頃にはほとんど孤立していた。
——そう言えば、家でお手玉していた頃はよく笑ってたな。
あれは、基子が鎌倉に引っ越してきて間もないある日の午後。
恭平が基子の家に行くと、基子は縁側でお手玉遊びをしていた。
お手玉というものを見たことがなかった恭平は「何をしているの?」と基子に聞いた。
基子は「おばあちゃんに作ってもらったお手玉で遊んでるの」と嬉しそうに言う。
三個のお手玉を一個ずつ上に放り投げ、器用に両手でくるくると回す様は、幼い頃の恭平にとってまるでサーカスの大道芸人の様に写っていた。




