第二章 其ノ壱
「なるほどね。ちょっと貸して」
佐々木はそう言うと、恭平から本を受け取った。
そして、難しい顔をしながらパラパラとページを繰っている。
黙ってその様子を見守る恭平。
佐々木は本を開いたままテーブルに置いて恭平に説明を始めた。
「まずはここ。『おつなとおよし』の双子がいたって書いてある。しかし、伝承だと『おつな』一人だけなんだけどなぁ。姉妹だったってのは初めてのケースだ。実に興味深い。それとここには『双子はどちらか一方を殺さなければならない掟』って書いてあるね。昔、うちの爺さんにそんな風習があったって聞いたことがあるけど、ここ最近は……」
そして唐突に言葉を切って、考え込む。
「叔父さん?」
「いや——なんでもない。そう、古い風習だ」
恭平が呼びかけるも、自分に言い聞かせるように独りごちている佐々木。
ごまかすようにぺらりとページを進め、文字を指差しながら再び説明を始める。
「両親は双子のうち一人を隠して育ててたみたいだね。それが盟主にバレて、えっと——えっ?」
なぞっていた指を止め、目だけを動かして文字を追っている。
「一家ともども重罪とし、死刑を宣告……」
「えっ! 掟を破っただけで、一家全員死刑になるのかよ!」
驚きすぎて声が大きくなる。
「そう、書いてある——この島に限ったことではないけれど、当時は実際にそういったケースも少なくはないんだ。何せ、掟が秩序だったりするからね」
「なんか、悔しいなそれ」
望んで双子になったわけではない。
生まれてきただけで、殺されなければならない……。
そして、それを受け入れなければならない親の気持ちとは、一体どれほど辛いものなのだろうか。
やり場のない怒りが沸々と湧いてきて唇を噛み締める。
さらに先を読み進めていた佐々木が「なるほど」と頷いた。
「どうやら『おつな』は『鬼憑き』だったようだね」
「鬼憑き?」
聞いたことのない単語に恭平は首を傾げる。
「鬼憑きってのは、この島に伝わる伝説みたいなものさ。その昔、この島が『鬼ヶ島』と呼ばれていた時代。鬼の力を持って生まれる子供が稀にいたらしくてね」
「鬼の力?」
「そう。とは言っても、他の人よりも力が強いって程度だったみたいだけど」
「その『鬼憑き』だと、なにか都合が悪かったりするの?」
恭平の質問に「うーん」と唸りながら顎に指を当てて考えている佐々木。
「理由に関しては諸説あるけど、今も昔も『人と違う力』、言わば『異能』は忌み嫌われるものさ。西洋であった『魔女狩り』なんかがいい例だね。人智を超えた存在は人々にとって『畏れ』になる」
「つまり、鬼の力を持った『鬼憑き』は、排除の対象だったと……」
「そう言うことになるかな。恐らく、この時代も『鬼憑き』になった『おつな』は、結局は処刑されなければならなかっただろうね」
「そんな——」
双子で生まれたことで『掟』では殺されなければならなかったのにも関わらず、『鬼憑き』と言う特殊な体質により、更に殺される理由が増える。
死を背負って生まれた「おつな」と「およし」
そして、「鬼憑き」になったことで、その「死」から逃れられなくなった「おつな」
佐々木は再びページを繰ると、基子が倒れた時に見ていたページが現れた。
左半分に鳥獣戯画のような絵が描かれている。
髪が長く角の生えた鬼が、鉈を持って逃げ惑う人々を追いかけている。
「ここも伝承とは大きく違うね。えっと——浅之助を殺したおつなは、屋敷に火を放ち、鉈を持って村人を襲い始めた。おつなは浅之助を含む七人を殺し、四人を傷つけた」
「人数は一緒なんだ」
「いや——」
難しい顔をして文字を目で追う佐々木。
「一緒だとおかしいんだ。そもそも、浅之助の伝承だと、殺された七人の名前もちゃんと書かれてる」
「こっちに書かれてないからおかしいってこと?」
「そういうことじゃなくて、七人の名前があるってことは、浅之介が入ると八人になってなきゃならないんだ」
「じゃあ、伝承が嘘ってこと?」
「それはわからない——そもそも、これが本当の話だとは限らないし」
再び「うーん」と唸りながら考えを巡らせている佐々木。
「何はともあれ、この本は研究してみる価値がありそうだ。ありがとう、恭平」
「あ、ああ——」
なんとなく本の内容が腑に落ちなくて、恭平は曖昧な返事をした。
本を閉じてテーブルの上にそれを置き、出かける準備を始めるためか、いそいそと自室に戻る佐々木。
この後に「霊大祭」の件で、円香が迎えにくる手筈になっている。
とは言っても、準備の方はほとんど終わっているため、ただ単にみんなで騒ぐための口実だろう。
壁にかかった時計をチラリと見やる。
時刻はもうすぐ五時になる。
「そうだ。猿渡さんの夕食はキッチンに置いてあるから、それを準備して出してあげて」
佐々木は自室から顔だけ出して言った。
その姿はまるで生首が宙に浮いているように見えた。
「ああ、わかった」
そう生返事をすると、頭がひょこっと引っ込み、再びバタバタと音だけを鳴らしていた。
恭平はテーブルの上の薄黄色をした本を眺めるようにして見た。基子の言う通り、浅之助伝説が絡んでいるのだろうか。宿に帰ってきて、本を目にした時の様子もおかしかった。
——ヒントはこの本、か。
なぜか確信に近い感覚を恭平は感じていた。
※第二章は恭平視点に変わります。




