第一章 其ノ参拾捌
そして、暗闇の中、二人はなんとか地下室がある建物に到着した。
そこは四方を無機質なコンクリートで固められた小さな倉庫のようで、その真ん中に赤褐色をした重たそうな鉄の扉の入口がある。
「ちょっとこれ持ってて」
恭平は基子に傘を手渡すと、銀色のノブを回して扉を手前に引いた。
ぎぎぎと嫌な音を立て開き、そのまま中に入っていく。
傘を畳み、とんとんと床で水を斬りながら恭平の後に続いて中に入る。
すると、パチンと音がして、チカチカと天井の蛍光灯が灯った。
「眩しい——」
目を細め顔を背ける。
しばらくして、明かりに目が慣れたので周りを見回してみた。倉庫の壁はコンクリートが剥き出しで、左側にはスチールラックが手前と奥に二台。その手前の棚の上には工具箱らしきものや、鎌や斧といった鋭利な刃物が雑然と置かれている。熊手や箒は壁側に立て掛けられ、その前にあるオレンジ色をしたプラスチック製の大型チリトリだけが、なぜか異色に写った。
奥の棚は催事用の道具が置かれているのか、端の方に玉入れの籠が見えた。
右手側には地下へと続く階段がある。階段途中に蛍光灯があるのか、微かに明かりが見える。
ただ、切れかけなのだろう。チカチカと時々息切れを起こしていた。
「基子、こっち」
恭平はそう言って、その階段を下りていく。
基子も「うん」と頷き、恭平の後を追う。
階段を下りた先は、入口と同じ赤褐色の鉄の扉があった。
入口と違って雨に濡れていないためか、重厚な感じはあまりしない。しかし、恭平がドアノブを回して開けると、入口と同じようにぎぎぎと嫌な音を立てた。
中を覗くと、そこから先は完全な闇に支配されていた。急に空気がひやりと冷たくなる。
基子は寒さでぶるっと身を震わせ、ボディーバックからハンドタオルを出して、雨で濡れた服を叩くように拭いた。
「基子、大丈夫か?」
ドアノブに手をかけたまま振り返り恭平は言った。
「えっ? うーん、ちょっと寒いかな……」
自分の肩を抱くようにして摩る。
「あ、あぁ——そ、そうか。ちょっと待ってな」
そう言うと恭平は暗闇の中に飲み込まれるように消えていく。しばらくしてパチンと音が鳴り、すぐに辺りは明るくなった。
「な、何ここ……」
あまりに異質な光景に基子は混乱した。
黒々としていて、ごつごつと尖った岩肌が、壁に掛けられた工事用のライトでその陰影を浮かび上がらせている。
ぽた、ぽたっとどこかで水が滴り落ちる音も聞こえた。
誰がどう見ても『洞窟』だった。それが自然にできたものなのか、それとも人の手によって掘られたものなのかはわからないが、足元だけはしっかりとコンクリートで舗装されている。そして、それは奥まで続いていた。
「洞窟?」
「そんな感じのもんだな。この通路の先に少し開けた場所があって、そこでお祓いするんだよ」
「へ、へぇ……」
ここに来て、足が一気に重くなる。
びくびくしながら、恭平の後に付いて進んでいくと、途中で道が途切れていたかのように、電気がそこで終わっていた。おそらく道はまだ続いているのだろう。水の音が、ぴちょん、ぴちょんと跳ねる音に変わっている。
「基子はここに居て。準備してくる」
そう言って、恭平は再び闇に飲み込まれるように消えていった。




