第一章 其ノ参拾漆
これから行われるお祓いがどういうものか全く予想もつかなくて、実は少し緊張している。
しかも、恭平と円香の会話に出てきた「地下室」と言う単語が、基子の恐怖心を更に煽った。
多少は酔ってでも気分を誤魔化しておいた方がなんとなく良いような気もしていた。
徐々に氷が溶けて薄まっていく「あおちゅう」ロックを少しずつ減らしていく。
「よし! 恭平、嬢ちゃんを地下室に案内してあげな」
唐突に円香が言った。と同時に、周りの人達の会話がピタリと止み、みんなの視線が基子に注がれる。
急に注目を浴びたことへの居心地の悪さでビクッと肩を震わせると、塩をかけられたなめくじのようにしゅんと萎縮する。
そんな基子を庇うように恭平は立ち上がり、「わかりました」と言って廊下に連れ出した。
「恭平、地下室ってどこにあるの?」
襖を静かに閉め基子は言った。
「この建物の裏なんだけど、玄関からぐるっと回らなきゃだから一回外に出なきゃなんだよな……」
ポリポリと頭を掻きながら、嫌そうな顔をして恭平は言う。
「そっかぁ」
誰か知らない人の傘を借りるわけにもいかないので、二人で恭平の傘に入って向かえば良いと基子は思っていた。しかし、外に出てみると——
雨の勢いは全く弱まっていなかった。
「——傘差してても濡れるね、コレ」
車から玄関まででも大分濡れていた。
「基子が一人で使えよ。俺はダッシュするからさ」
恭平はバサッと開いた傘を基子に渡しながら言った。
「えっ! ダメだよ! 風邪引いちゃうって」
反射的に受け取ってしまったが、直ぐに突き返す。
「大丈夫だって。こう見えて身体だけは丈夫だから」
にかっと笑いながら恭平は言う。
「知ってるけどもダメだって!」
基子の記憶では、恭平が風邪を引いて寝込んでいるところを見たことがなかった。
恭平は基子の勢いに気圧されたのか、一瞬たじろぐと「わかった」と言って傘を受け取った。
「とは言っても傘一本じゃ、結局何も解決できてないけどな」
恭平は雨の降る遥か闇の奥を見つめている。
「私、誰かから傘借りてくる」
踵を返して中に戻ろうとしたところ、恭平に腕を掴まれた。
突然のことにびっくりして身体が固まる。
「きょ、恭平?」
「いいや、このままいっちまおう」
恭平は悪戯に笑った。
そして、傘を持っていない方の手で肩をぐいっと引き寄せられ、そのままの状態で雨の中に駆け出す。
「えっ! ちょっと、恭平!」
基子の半身が濡れないように気を遣ってか、ほとんど抱きしめられている様な状態だった。
密着したことへの恥ずかさもあったが、なにより突然走り出したことで足がもつれそうになって転ばないかの方が不安だ。




