第一章 其ノ参拾陸
すると、奥の方にいた円香が大きな声で基子を呼んだ。
「嬢ちゃん、こっち!」
ぺこりと会釈をして、円香の側に向かう。
隣では佐々木が既に赤い顔をして潰れていた。
「とりあえずここに座って」
ぽんぽんと円香の横の座布団を叩かれ、恐る恐るそこに腰を落とした。
「大丈夫よ。取って食ったりはしないから」
ふふふと笑いながらこちらを見ている。
円香は手前にあったグラスにアイスペールから氷を数個手掴みで入れると、「あおちゅう」と書かれた瓶を手に取って、それをなみなみと注いだ。
そして、「ほら」と言いながら基子にそれを勧めてくる。
断るのも気が引けたため、苦笑いを浮かべそれを受け取る。
——「あおちゅう」ロックじゃん……
零れないように口を近づけ、ずずずと少し吸い込む。
液体は口内から喉を抜け、軌跡を熱く焦がしながらぽちゃんと胃に収まる。
それは直ぐに基子の体温を上げた。
顔が火照りだす。
「いい飲みっぷりだね。もっと飲むかい?」
円香の言葉に基子はギョッと目を剥き、勢いよくふるふると顔を横に振った。
お酒は好きだが得意ではない。
——せ、せめて、水割りで……
そう思っていると、基子の隣りに烏龍茶を持った恭平が来て腰を下ろした。
「円香さん、基子はあんまり強くないんで勘弁してください。代わりに俺が飲みますから」
「飲みますって、恭平のは烏龍茶だろ」
「そりゃそうですよ。だれが酔っ払ったみんなを車で送っていくと思ってるんですか?」
「全く、恭平はつれないねぇ」
円香は手元にあった自分のグラスを取り、ぐいっと一気に煽った。
「それより、円香さん。基子のお祓いの準備は大丈夫なんですか?」
空いた自分のグラスにとぷとぷと「あおちゅう」を入れている円香に恭平は聞く。
「ん? ああ。みんなに手伝ってもらって、地下室に準備はしてあるよ」
円香はグラスに口をつけ、それをごくごくと飲んでいる。
「じゃあ、早めにお願いします。どのみち『霊大祭』の準備もほぼ終わっているので」
「ああ、わかったよ」
恭平の言葉をちゃんと聞いているのかいないのか、円香は再び空にしたグラスに「あおちゅう」を注いでいた。
——円香さん、飲み過ぎじゃない……
基子は手に持った自分のグラスに目を落とした。
——全然減ってない……
カラカラと氷を遊ばせ、少しでも薄くなるのを待つ。
すると、恭平が耳打ちをしてきた。
「無理に飲まなくていいからな」
基子は「うん」と小さく頷くと、グラスを口に運び、ちょぴりと飲んだ。




