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#魕ガ棲ム島  作者: YasuAki
35/102

第一章 其ノ参拾肆

 こんこん。


——ん……何?


 こんこんこん。


「はっ!」


 基子は慌てて飛び起きた。

 どうやら、広縁でそのまま寝てしまっていたようだった。


「基子、起きてるか? 飯できたけどどうする?」


 扉の向こうから恭平の声が聞こえる。


「あっ、うん! えっと……ちょっと待って。準備できたらすぐに行くから!」


 焦りながら立ちあがろうとして、ゴンとテーブルに足をぶつける。


「痛っ!」


 畳の上を転がり、その場にうずくまり痛みに耐える。部屋が真っ暗なせいで何も見えない。


「基子、大丈夫か? すごい音がしたけど」


「——うん。だ、大丈ばなくないけど、大丈夫」


「えっ? どっちなんだそれ?」


「大丈夫!」


 ついつい声が大きくなる。


「お、おう——とりあえず下にいるから、準備ができたら下りてこいよ」


「うん。ありがとう」


 ぶつけたであろう場所をさすりながら、痛みが引いていくのを待つ。

 きっと痣になってるだろうなと思い、軽く溜息が出た。

 畳の上を這うようにして、手探りで部屋の電気のスイッチを探す。

 パチンと音がして、チカチカと部屋が明るくなり、眩しさで目を細める。

 窓の方でガタンと何か音がして、ビクッと肩跳ねた。


「えっ? な、何?」


 基子は今更ながら、カーテンを閉めていなかったことに気が付き、しまったと思った。恐る恐る音のした方に目を向ける。

 そこには小さな黒い塊が、カリカリと窓を引っ掻いていた。


「ね、猫?」


 基子が窓に近づくと、黒猫は「開けて」と言っているのか「にゃー」と口を動かしている。


「なんで猫が二階に? って、もしかしてここの飼い猫?」


 ここに来て数日、宿で黒猫を見た記憶はない。恐らく外で放し飼いなのだろう。

 鍵を外して窓を開ける。

 黒猫はタタンとテーブルから床に飛び降りると、基子の方を見て「にゃー」と一言だけ鳴き身震いをした。


「うわっ! ちょっと!」


 弾け飛んだ水滴が基子にかかり、床や壁、椅子さえも濡らしていた。


「もう! ってびっしょりじゃん! タオルは、えっと——」


 黒い毛が雨に濡れてツヤツヤと輝いている。当の本人は気にしていないのか、その場に座り、呑気に後ろ足をぺろぺろと舐めていた。

 バタバタと荷物からタオルを取り出して、基子は自分に跳ねた水滴を叩くように拭う。そして、次は黒猫の濡れた体を拭くため捕まえようとして、するりと上手く躱される。


「ちょっと、逃げないでよ!」


 黒猫はびしょびしょのまま、ぽてぽてと部屋の中を歩き出口に向かっていた。

「もう!」と呆れる基子の心情とは裏腹に、黒猫は扉の前まで行くと、「開けてくれ」と言わんばかりの視線を基子に向けていた。


「わかったよ。開けるからちょっと待って」


 誰かが飛び散らかした水滴と、水気を含んだ小さな足跡を拭きながら黒猫の後を追う。

 かちゃりと鍵を外し、ドアを開くと同時に黒猫はするりと隙間から廊下に出て行ってしまった。

 基子はドアから身を乗り出すようにして黒猫の後ろ姿を見送る。

 ふりふりと尻尾を揺らし、何事もなかったかのように堂々と廊下を歩いている。


——やっぱり、ここの飼い猫か。


 その落ち着きぶりから、恐らくこの宿が家なのだろう。

 階下に向かう闇にその姿が消えるのを確認すると、基子はドアを閉めて大広間に向かう準備をはじめた。

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