第一章 其ノ参拾壱
「そ、それでですね、円香さんに『巫女気』についてお聞きしたいんですが……」
「巫女気? なんだい、お前さんは巫女にでもなりたいのかい?」
にやにやと不敵に笑みを浮かべ聞いてくる。
「いやいやいや! 全然なりたくないです怖いの苦手なんで寧ろ勘弁してください!」
勘違いされても困るため、まくし立てるように言う。円香はふんと鼻を鳴らし、椅子に腰掛けた。
「それで、巫女気について知りたいって一体どうしてだい?」
「それは……あの、ですね……」
思い出すのも嫌なため、ついつい口が重くなる。
「俺が説明するよ」
そんな基子の様子を察したのか、横から恭平が口を挟んだ。
基子はそのままベッドに腰掛け、二人の様子をぼーと眺めていた。
——そういえば、倒れる前に何してたっけ?
恭平と二人で図書館に行って、分厚い史料を読んでいた。恭平が見つけた史料に「巫俗」のことが書いてあり、もしかしたら基子には「巫女気」があって、「乱心」に近い症状が起きたのではないかということだった。
そして円香さんが巫女さんだと知り、詳しく話を聞ければと思い、本の片付けが終わったら伺うはずだったが……自分の意志とは関係なしにここに来てしまった。しかし、過程はどうあれ結果はオーライ。
二人は話し終わったのか、くるりとこちらを向いた。そして、円香が口を開く。
「事情はだいたいわかったよ。もし、それが本当に『乱心』だとしたら、お祓いをするか『カミソウゼ』をして巫女の道を選ぶかしなきゃならない。ただ、お祓いは一時的なもの。本当は巫女の道を進むことをお勧めするけどね。時代が時代だから、お前さんの好きな方を選べばいい」
「巫女になるなんて、私には無理です!」
ぶんぶんと手を振って全力で否定する。
「巫女さんが何をするかは知らないですが……私には絶対にできません」
神様に選ばれた者だとしても、不可思議な能力なんていらない。俯き、床を眺めながらぽつりと呟く。
「そうかい。じゃ、後でお祓いだけしとこうかね。ちょうど夜に『霊大祭』の準備で集まるから、皆に協力してもらうとするよ」
ぎしっと椅子の背にもたれながら円香は言った。
「あ、ありがとうございます。ちなみに、お祓いは一時的って言ってましたが、定期的にしなければならいんですか?」
嬉しさのあまりガバッと勢いよく顔を上げて言うが、先程円香が言っていた言葉が気掛かりで、声量は段々と尻すぼみになっていく。
「あぁ、そうだね。本来ならカミソウゼをして嬢ちゃんの中に入った神様を出して『御箱』に収めれば問題ないんだけどね。お祓いはあくまでも『乱心』の症状を抑える補助的なこと。例えると……虫垂炎みたいなものだよ。薬で散らしても再発の恐れがある。切って取っちまえば、傷は残るが発症することはない。ただ、虫垂炎と違うのは『乱心』は『必ず再発する』ってだけさ」
「そう、ですか……」
絶望感が全身を包み込み目頭が熱くなった。泣いても何も解決はしない。最近も同じように自分に言い聞かせ立ちあがろうとした。そして、それを断ち切り気分を切り替えるためにこの島にやってきたはずだった。なのになぜ……
俯き手で顔を覆う。すると突然、肩に手を置かれ、頭にコツンと何かがぶつかった。
「基子、大丈夫だ。俺が側にいる」
咄嗟に顔を上げると、恭平がこちらを見つめていた。
そして、みるみるうちに顔が赤くなっていく。
「いや、その、違くて——そう! この島にいる間は近くにいるってだけで。ふ、深い意味はないというか、その……」
必死に誤魔化そうとするその仕草が可笑しくて、基子はぷっと吹き出し笑ってしまった。それに釣られるように、恭平も笑う。二人してひとしきり笑い切ったところで、基子は口を開いた。
「ありがとう、恭平。少し元気出た」
にこりと笑顔を見せる。恭平は一瞬、恥ずかしそうにしたものの、同じようににこりと笑って返した。




