第一章 其ノ参拾
「——と子。基子! 大丈夫か?」
脳に響く心地よい声。
うーんと唸りながら瞼を開けると、恭平と円香が心配そうな顔をしてこちらを覗き込んでいた。
「……恭……平?」
「良かったぁ」
ほっとしたようで恭平は安堵の表情を浮かべ、大きく胸を撫で下ろしている。
基子は状況が掴めず、キョロキョロと周りを見回した。
「えっと、ここは?」
「村の診療所だよ」
恭平の後ろから、白衣を羽織った円香が言った。カチャカチャとなにかをしている。
「どれ、ちょっと起き上がって目を見せてみな」
むくりと上体を起こし、近づいてきた円香の方に顔を向ける。円香の手が基子の顔に触れると、ヒヤリと冷たくてびくりと肩が跳ねた。
片手に持ったペンライトを向けられ、眩しくて目を瞑りそうなる。が、ガシッと指で止められた。
「歩けそうかい?」
ペンライトをしまいながら円香は問う。
「えっと、はい。大丈夫だと思います」
そう答えると、円香と恭平が見守る中、ベッドから足を下ろして立ち上がった。
「ふらふらはしないかい?」
「はい。大丈夫です」
「なら平気だね。ただの貧血だよ。とりあえず、心配なら向こうに帰ってから病院で精密検査を受けな。万が一大きな病気とかだと怖いからねぇ」
「……わかりました」
ひひひと笑う円香。落ち込む基子。そして、それを心配そうに見つめる恭平。
「円香さん、ありがとうございました」
深々とお辞儀をする恭平に、倣うように基子も慌てて頭を下げた。
「お前さんが血相変えて嬢ちゃんを運んできた時は何事かと思ったけどね」
にやりと不敵な笑みを浮かべ円香は言った。
ちらりと恭平の顔を見ると、恥かしかったのか、俯きながら赤くなっている。
基子はそこまで心配してくれたことが嬉しくて、ついつい口角が上がる。
視界の端に壁時計が写った。そちらを見やると時刻は三時を少し過ぎていた。
「えっ! もうこんな時間!」
驚きすぎて大きな声を出してしまい、二人が一斉に基子の方を向いた。
「あっ——ごめんなさい」
慌てて口を塞ぎ、項垂れながら謝る。
「倒れてから大分眠っていたからねぇ」
「……そうなんですね——長々と本当にすみませんでした」
基子は再び円香に頭を下げた。
「いいっていいって。これも仕事だし、何より恭平のあんなに取り乱した姿はなかなか見れないからね」
「ちょっと、円香さん!」
面白そうにくつくつと笑う円香に、顔を赤らめ詰め寄る恭平。そんな二人のやり取りを見ていて、基子はふとあることを思い出した。
「あの、円香さん。ちょっといいですか?」
「ん? なんだい急に?」
円香は基子の方を振り向いた。
「円香さんって、『巫女』さんなんですか?」
おずおずと聞く。
突然のことに、「へ?」と声を漏らし、ぽかーんと呆ける円香。しかし、すぐに破顔した。
「はははは! 本当に面白い子だね。一体誰から——」
円香はちらりと恭平の方を見ると、納得したように言った。
「そうかい、恭平だね。そうだよ。あたしは医者をしながら巫業もしてる天才巫女『円香』とはあたしのことだよ」
「天才巫女?」
「気にするな。テレビの見過ぎなんだ」
基子の耳元で囁くように恭平は言う。
「そこ、聞こえてるよ!」
目をギラリと光らせ恭平を睨む円香。思わずたじろぐ恭平。




