第一章 其ノ弐拾捌
「……心的異常?」
基子は思わず口走った。
「みたいだな。それが一体どういう状況なのかは書いてないから分からないけど、基子の身に起きたことがそうなら、呪いじゃなくて『巫女気』があって、神様に選ばれたのかもしれないな」
「ちょ、ちょっと待って! 神様に選ばれるとか、ないないない、絶対ない!」
慌てて首を振る。そもそも怖いものが苦手なのに、そんなものは頼まれても願い下げだ。
「じゃあ、なにか。呪いの方が良かったか?」
「いや、それは……もっと困る……」
パタンと本を閉じて、水が上手く吸えなかった花がごとくしゅんと項垂れる。
「だろ。呪いに関しては俺は聞いた事ないし、その『巫女気』があるって言われた方がしっくりくる気がする」
「でもでも! じゃあなんで私なのかな? 普通だったら島の人じゃないの?」
ずいっと恭平に詰め寄る。突然のことにたじろぐ恭平。
「い、いや、そんなこと言われてもなあ。神様の趣味は——わからないでもないが……」
「どう言うこと?」
ガシッと恭平の肩を掴んだ。恭平は目を逸らしポリポリと頬を掻いている。
「そ、そうだ! 現役の巫女さんに直接話を聞いてみたら良いんじゃね?」
恭平は思い出したように言った。
「現役の巫女さん? 私、巫女さんの知り合いなんていないけど?」
友達もそんなに多くないよと自虐ネタは内心に秘め、怪訝な顔で言葉を返す。
「何言ってるんだよ。さっき会っただろ」
「さっき?」
基子に思い当たる節は全くなかった。先程、恭平がお喋りしていた司書の女性のことだろうか——
「いや、だから、何怒ってるんだよ」
「えっ? 何が?」
「何がって、明らかに不貞腐れて——まぁ、良いや。巫女って言うのは、円香さんだよ」
「円香さん? ——えっ? ええええー!」
驚きすぎて大きな声を出してしまった。
「ば、馬鹿! 声がでかいって!」
カウンターからは何事かと司書さんが顔を覗かせていた。慌てて自分で口を塞ぐ。
「あっ、ご、ごめん」
自分でも思ってもいない声が出たことに、恥ずかしくて赤面する基子。
「でも、円香さんってお医者さんでしょ? 巫女さんと兼業ってこと?」
「うーん、そう言うことになるかな——ただ、そもそもこの島で巫女が職業かって言われると、微妙なんだけどな」
恭平はそう言うと、椅子から立ち上がりテーブルの上の本を片付け始めた。
「あっ、私も手伝うよ」
「サンキュ。それじゃ、こっちお願い。確かあっちの棚だったと思う」
なかなか重そうな本を数冊基子の方に寄せ、テーブルから一番離れた位置の棚を指して言った。
——意地悪。
そんな基子の気持ちを読んだのか、ぽんぽんと頭を叩きニカッと笑う。
「ありがとな」
「あっ、うん——」
俯きながらテーブルの上の本を取り、そそくさと本棚に本を戻しに向かう。




