第一章 其ノ弐拾陸
しばらくして、細かい字の見すぎで頭がオーバーヒートしそうな基子は、「うわぁー」と言いながら両手を上げ、大きく後ろに上体を逸らした。
すると、こつんと頭になにかぶつかった。
「あっ! ごめんなさい」
慌てて上体を戻して後ろを振り返る。
そこには恭平が本を持って立っていた。
「なんだ、恭平か……って、痛っ!」
「なんだとはなんだ」
頭を手刀で小突かれる。
「それよりどうだ。なんか見つかったか?」
手に持っていた本をテーブルの上に置きながら恭平は言った。
「うーん……あんまり、めぼしいものがないよね。ほとんどが今朝、佐々木さんから聞いた話だし」
「そうか。で、この雑誌は?」
分厚い本たちの下に隠れていた最近人気急上昇中の女優が表紙の本を手に取り、真顔で基子に問う。
「えっと……あれ? おかしいなぁ。なんでそんなものがあるのかなぁ」
虚空に目を泳がせ、慌てて誤魔化す。恭平は呆れたように溜息をつくと、ぽすっと本を置き言った。
「慣れないことで疲れたろうから、休憩するといいよ。その間、ここで調べとくからさ」
やはり、他の本を探しに行くふりをして、ささっとファッション誌を持ってきたことを怒っているようだ。
「うん……ありがとう」
気まずそうに呟き立ち上がると、恭平は入れ替わるように椅子に腰かけた。
基子は郷土史料の部屋から出て、そのまま外に向かった。自動ドアが開き、ムワッと生温い空気が体にまとわりつく。空を見上げると、灰色の空から今にも雨が降ってきそうだった。
——確か、午後から雨だっけ。
腕時計を見ると、時刻はもうすぐ正午。
うーんと唸り、大きく伸びをする。コキコキと肩を回してから深呼吸。雨が降る前の独特な匂いが鼻を抜けた。
ふうと大きくて息を吐き、踵を返して入口に戻る。
ウィーンと自動ドアが開き、今度はひんやりとした空気に包まれる。
基子はトイレに寄ってから戻ろうと思い、頭上にあるであろう案内板を探した。ふとカウンターに目をやると、司書さんと話をしている恭平が見えた。
「恭へ……」
声をかけようとして、言葉を飲み込んだ。
笑いながら楽しそうに話す二人。胸の奥がキュッとなる。
伸ばしかけた手を引っ込め、基子は再び案内板を探す。
「あった!」
小さく独りごちると、カウンターとは逆方向を指している案内板に従って足早にトイレに向かった。




