第一章 其ノ弐拾伍
診療所の真隣にある図書館に入ると、小さな棚に『今月のおすすめ図書』と書かれた手書きのポップとともに、何冊か本が並べられていた。その右奥側にはカウンターがあり、その中で女性の司書さんが忙しそうに働いている。
娯楽施設が少ないためか、図書館に足を運ぶ人も多いのだろう。実際、周りを見回すと、そこそこの数の人が静かに本を読んでいた。
「恭平、史料はどこらへん?」
足を止めてキョロキョロする恭平に声をかける。
「えっと、確か……あっちだったと思う」
恭平はそう言ってカウンターの横をスっと通り抜け、そのまま真っ直ぐ進んで行く。基子もその後に続く。
なんとなく立ち止まってチラリとカウンターの中を見やると、先ほどまで忙しそうに仕事をしていた司書さんが手を止めてこちらを見ていた。
基子の視線に気がついたのか、目が合うと慌てた様子で頭を下げてきた。基子もぺこりと軽く一瞥する。
その隙に恭平はスタスタと先に行ってしまったので、小走りで追いかけた。
「あった。ここだ」
図書館の中は全てオープンスペースになっているのに対して、そこは一角だけ隔離されていた。
入口に扉はなく、四方は背の高い本棚で囲まれていて、中央にも同じように本棚が置かれている。そして、端の方にはテーブルと椅子がひっそりと数個置かれていた。
薄いベージュの本棚には、濃色の赤やら青やら黄色やらの年季の入った背表紙の群れが所狭しと敷き詰められていて、手に取るのも少々はばかられた。
普段、恋愛小説くらいしか読まない基子にとって、それだけで一歩退けたくなるような威圧を感じる。
そんな基子を尻目に、恭平は書棚からひょいひょいと本を摘んでいた。何冊か手に抱えると、そのまま近くにあったテーブルの上に置く。
その様子を黙って見ていた基子。恭平はテーブルの前にあった椅子を引き「ほれ」と座るよう促した。
「えっと……私が調べるの?」
テーブルの上に乗った、いかにも難しそうな本をちらりと見て言う。
「そりゃそうだろ。悪夢見たのは基子なんだから」
「で、でもほら、恭平の方がこの島に詳しいじゃん」
「俺も手伝うけど、とりあえず座って調べろって」
再び本に目を落とす。
——ぶ、分厚い……
「わかった。私も自分で探してくる」
はぁと溜息をつき、呆れたように恭平は言った。
「基子に全部任せたら、調べ物もせずに違うところに行くべ。雑誌読んでる暇はないぞ」
「なんでわかっ……い、いや、ちゃんとやるって!」
図星だった。
堅い本が苦手というのもあるが、何より内容を読んで自分が見た悪夢と重なり思い出すのが嫌だった。
「それに、やっぱり気のせいだったんじゃないかなぁって思うんだよね」
たははと誤魔化すように笑いながら基子は言った。すると、今度は真剣な面持ちで恭平に見つめられる。
「な、なに?」
たじろぐ基子。
「いや、基子が気にしないんだったらいいんだけど、一応、この島って古い風習とかあるからさ。今回の霊大祭だってそうだし、昔の人を重んじるというか、神様云々とか、ちょっと宗教的なところもあるからな。実際に二十世紀初めまでは……ま、まぁ、基子がいいならいいんだけど」
「えっ! ちょ、ちょっと。話途中で切らないでよ!」
基子は恭平の腕を掴んだ。あははと空笑を浮かべ、恭平は言う。
「いや、だって、そんなに心配そうな顔で見られたら言いづらいだろ」
基子は「えっ!」と唸ると、しゅんと萎れた花のように項垂れた。そして、ぽんぽんと頭を叩かれる。
「とりあえず、気のせいだったとしても、調べておけば少しは安心するだろ」
「う、うん。ありがと」
なんだかんだで心配してくれる恭平。
「じゃ、あっち探してくるから、それ見ておいてな」
基子は小さく「うん」と頷き椅子に腰掛けた。
目の前にある分厚い本をペラペラとめくり、目次を探す。それを見て安心したのか、恭平はその場を離れていった。




