第一章 其ノ弐拾参
もう一つの話は、「浅之助より先におつなが自殺する」というもの。
浅之助とおつなが恋仲で両親や村人に仕置きを受けていたことと、おつなに許嫁がいることは前話と一緒だったが、他火小屋での出来事が違っていた。
月経になり他火小屋に隔離されたおつなの元に、こっそりと逢いに行く浅之助。ある日、浅之助は機を織るおつなに何を織っているのかと訪ねた。
おつなは「貴方の身に着けるものよ」と答えたが、浅之助は「私のことは心配しなくてもいいから、自分のものを織りなさい」と言った。
浅之助の心遣いを「もう俺に構わないでくれ」と曲解したおつな。悩み苦しんだ挙句、その日の晩に首を吊って死んでしまった。
悲嘆に暮れた浅之助。
そもそも、村人たちが二人の中を引き裂こうとしていたことが原因と考えた浅之助は復讐を誓った。
七日七晩斧を研ぎ、村人を七人殺し、四人に重傷を負わせ、こちらでも観音様に邪魔をされて村人に追われる。
なんとか海に逃げ込むもあえなく捕らえられ、最後は生き埋めにされたまま村人たちに槍で突かれ殺されてしまう。
しかし、禁忌を犯すことはそれほど重罪なのだろうか。人を殺してまで逃れたい罪とは……
この平和な現代社会でルールはあれど、禁忌などという物騒なものに出会ったことはない。考えを巡らせても、恐らくその答えは出ないだろう。
何はともあれ、昨日で目ぼしい観光名所を回り終えてしまった基子は、恭平の勧めで図書館に行ってみようということになった。
村の図書館なら郷土史料に記述があるかどうか調べられるんじゃないかとの考えのようだが、基子自身は特に実害があった訳でもないため、本当ならこのまま何も無かったことにして帰りたかった。しかし、「村の呪いとかだったら嫌じゃん?」と、とんでもないことをサラッと言ってのける恭平に、基子が怖がりだと知ってわざと言っているのかと思いつつも、もしそうであれば解決策も見つけて欲しいとも思っていた。




