表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
#魕ガ棲ム島  作者: YasuAki
21/102

第一章 其ノ弐拾

 パチパチと家屋が焼ける音がする。

 荷重に耐えきれなくなったのか、赤く燃える塊はガラガラと大きな音を立て、どしゃっと潰れるように真っ黒に塗られた地面に崩れ落ちた。


「……のすけ! 浅之助!」


 声のする方向を見ると、髪の長い綺麗な顔立ちをした女性が、地面に座ったまま何かを抱きかかえ泣き叫んでいる。


「浅之助! ねえ! 起きてよ! 返事を……してよ……」


 その場に崩れるように項垂れて、ただ嗚咽だけを漏らす。そんな彼女の側へ近づくと、ゆっくり顔を上げて彼女は言った。


「なんで浅之助まで殺したの! 関係のない人まで巻き込んで、あなたは何がしたいのよ!」


 般若のような形相でこちらを睨みつけ、矢継ぎ早に怒号を投げつける彼女。


「だって、それは姉さんを助けようとして……」


 取り繕う言葉で紡ごうとするが、胸の奥から何かが込み上げてきて、途中で声が萎んでしまった。


「そんなことは頼んでない! 私は助けてくれなんて言ってない! 助けて……くれなくて、良かったのに……」


 俯き悔しそうに唇を噛み締める彼女。


「でも、私は……」


 キッと睨みつけられ、思わず怯み言い淀んだ。ゆらゆらと揺らめく赤と黒のコントラストに彩られたその顔が、まるで本物の鬼のように見えた。


「あなたはいつもそう! 私の欲しいものを全て奪っていく! その『力』だって、父様や母様の愛情だって——それに、浅之助の……命までも……」


 思わずえっと驚く。


「そんなはずない! 父様も母様も、鬼憑きのあたしなんかより姉さんを愛してた。浅之助は、その……ごめんなさい」


「ごめんなさいで浅之助が生き返るなら何度でも謝ってよ! 折角全て諦めたはずだったのに、最後にこの仕打ちはないでしょ! なんでよ……なんでなのよ……浅野助ぇ」


 浅之助を抱え、わんわんと泣き叫ぶ姉。

 自分がしでかしてしまったことが足元をそわそわさせ、今すぐその場から逃げ出したい気持ちに駆られる。しばらくして姉は落ち着いたのか、顔を上げるとわなわなと声を震わせ言った。


「なんで……こんな、自分の価値すらわかっていないあんたが生き残るのよ。なんで、その力が私にないのよ。なんでなのよ!」


 キッと姉はこちらを睨みつけた。

 殺意に満ちたその表情に、ひっとたじろぐ。


「あんたさえいなければ良かった! あんたなんか、生まれてこなければよかったのよ!」


「そ、そんなこと……」


「そうよ……そうだわ。あんたが死ねばいいのよ。あんたが死ねば、私は自由に生きていける……なんでこんな簡単なことに気がつかなったのかしら」


 姉は怒り狂ったように叫んだかと思うと、急に何かを思いついたのか、思案顔を浮かべぶつぶつと独りごちていた。


「ねぇ、私を助けたいならあんたが死んで。そうすれば私は幸せになれる。浅之助のことは……許せないけど、あんたが死んでくれるならこの際仕方ないわ。ねぇ、早くその手に持ってる鉈で、自分の首でも斬り落としてちょうだい」


 抱えていた浅之助には興味がなくなったのか、どさっと地面に落として立ち上がると、ゆらりゆらりと揺れながらゆっくりとこちらに近づいてくる。

 炎に照らされた姉は、引き攣るような顔でこちらを見つめていた。

 気圧されるようにしてじりじりと後退るが、途中で石につまづいてしまいドサッと後ろに倒れた。

 その隙に距離を縮め、マウントを取るようにして体の上にのしかかられる。そして、肩をガシッと掴まれたかと思うと、そのまま這うように首元に手がかかった。


「ね、姉さ……」


 徐々に締め付けられていく力に反発するように声を絞り出す。すると、スっと手の力が弱まり、姉はにこりと笑いながら耳元に顔を近づけて言った。


「大丈夫、すぐに楽になるから——お姉ちゃん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ