第一章 其ノ弐拾
パチパチと家屋が焼ける音がする。
荷重に耐えきれなくなったのか、赤く燃える塊はガラガラと大きな音を立て、どしゃっと潰れるように真っ黒に塗られた地面に崩れ落ちた。
「……のすけ! 浅之助!」
声のする方向を見ると、髪の長い綺麗な顔立ちをした女性が、地面に座ったまま何かを抱きかかえ泣き叫んでいる。
「浅之助! ねえ! 起きてよ! 返事を……してよ……」
その場に崩れるように項垂れて、ただ嗚咽だけを漏らす。そんな彼女の側へ近づくと、ゆっくり顔を上げて彼女は言った。
「なんで浅之助まで殺したの! 関係のない人まで巻き込んで、あなたは何がしたいのよ!」
般若のような形相でこちらを睨みつけ、矢継ぎ早に怒号を投げつける彼女。
「だって、それは姉さんを助けようとして……」
取り繕う言葉で紡ごうとするが、胸の奥から何かが込み上げてきて、途中で声が萎んでしまった。
「そんなことは頼んでない! 私は助けてくれなんて言ってない! 助けて……くれなくて、良かったのに……」
俯き悔しそうに唇を噛み締める彼女。
「でも、私は……」
キッと睨みつけられ、思わず怯み言い淀んだ。ゆらゆらと揺らめく赤と黒のコントラストに彩られたその顔が、まるで本物の鬼のように見えた。
「あなたはいつもそう! 私の欲しいものを全て奪っていく! その『力』だって、父様や母様の愛情だって——それに、浅之助の……命までも……」
思わずえっと驚く。
「そんなはずない! 父様も母様も、鬼憑きのあたしなんかより姉さんを愛してた。浅之助は、その……ごめんなさい」
「ごめんなさいで浅之助が生き返るなら何度でも謝ってよ! 折角全て諦めたはずだったのに、最後にこの仕打ちはないでしょ! なんでよ……なんでなのよ……浅野助ぇ」
浅之助を抱え、わんわんと泣き叫ぶ姉。
自分がしでかしてしまったことが足元をそわそわさせ、今すぐその場から逃げ出したい気持ちに駆られる。しばらくして姉は落ち着いたのか、顔を上げるとわなわなと声を震わせ言った。
「なんで……こんな、自分の価値すらわかっていないあんたが生き残るのよ。なんで、その力が私にないのよ。なんでなのよ!」
キッと姉はこちらを睨みつけた。
殺意に満ちたその表情に、ひっとたじろぐ。
「あんたさえいなければ良かった! あんたなんか、生まれてこなければよかったのよ!」
「そ、そんなこと……」
「そうよ……そうだわ。あんたが死ねばいいのよ。あんたが死ねば、私は自由に生きていける……なんでこんな簡単なことに気がつかなったのかしら」
姉は怒り狂ったように叫んだかと思うと、急に何かを思いついたのか、思案顔を浮かべぶつぶつと独りごちていた。
「ねぇ、私を助けたいならあんたが死んで。そうすれば私は幸せになれる。浅之助のことは……許せないけど、あんたが死んでくれるならこの際仕方ないわ。ねぇ、早くその手に持ってる鉈で、自分の首でも斬り落としてちょうだい」
抱えていた浅之助には興味がなくなったのか、どさっと地面に落として立ち上がると、ゆらりゆらりと揺れながらゆっくりとこちらに近づいてくる。
炎に照らされた姉は、引き攣るような顔でこちらを見つめていた。
気圧されるようにしてじりじりと後退るが、途中で石につまづいてしまいドサッと後ろに倒れた。
その隙に距離を縮め、マウントを取るようにして体の上にのしかかられる。そして、肩をガシッと掴まれたかと思うと、そのまま這うように首元に手がかかった。
「ね、姉さ……」
徐々に締め付けられていく力に反発するように声を絞り出す。すると、スっと手の力が弱まり、姉はにこりと笑いながら耳元に顔を近づけて言った。
「大丈夫、すぐに楽になるから——お姉ちゃん」




