第一章 其ノ拾玖
基子はメインディッシュの抜けた食事を改めて見る。なんとも味気ない感じだ。
しばらくすると、恭平がお皿を持って戻ってきた。
「お待たせ。ほれ」
基子の目の前に座りながらことりと皿を置く。
先程のお刺身は軽く炙られたのか、白く濁った身の所々についた焦げ目から香ばしい匂いがしていた。
「ありがとう。って、わざわざ炙ってきたの?」
「そう。酒のつまみにもなるし、ご飯に乗せてお茶漬けにしても美味いし」
「そっか——でも、これ焦げすぎだね」
にししと笑いながら、炙りすぎて黒くなった身を箸で一枚つまみ上げる。
「は、腹の中に入れば同じだろ!」
恥ずかしそうにしてそっぽを向く恭平。
「うん、ありがと。じゃ、早速いただきます」
両手を合わせ、先程つまんだ黒くなった身を醤油につけて口に運び、ゆっくりと味わいながら咀嚼する。
一瞬、ジャリッと口の中に苦味が広がったが、新鮮な魚のプリプリとした身がそれをすぐに和らげ、甘みが後から押し寄せてきた。
思わず溜息が漏れる。
「どうだ。美味いだろ?」
「——うん。美味しい」
恍惚とした表情を浮かべ、もう一枚食べようと箸を伸ばしたところを恭平に止められる。
「ちょっと待った。そのままペロッと全部食べちまいそうだから、先にお茶漬けにして食べてみ」
ほれと茶碗を催促されたので、ほとんど食べていないご飯を渡すと、上着のポケットから有名なお茶漬けメーカーの袋を一つ取り出した。
「そこは市販のやつなんだ」
思わずツッコミを入れる。
「永谷園を馬鹿にするなよ。手間暇かけなくて、普通に美味いなんて最高だろうが」
ビリッと袋を破り、サラサラと白いご飯に振りかける。
「それはそうだけど、なんか味気ないと言うか……」
「魚の炙りもできない俺に、それ以上求めるのか?」
「うっ……なんか、ごめん」
自虐ネタとわかりつつも、なぜかこちら側が気まずい。
「ほら、できた」
恭平はいつの間にか、魚の炙りをご飯の上に乗せてお湯を注いでいた。立ち上る湯気が、香ばしくていい匂いをたゆたわせ、思わずヨダレが溢れ出そうになる。
ほれとお椀を手渡され、並々と注がれたお湯をこぼさないように慎重に受け取った。
「うわぁ、美味しそう!」
「いいから、一口食べてみ」
早速、ぱくっと一口。
お茶によって程よくほぐれた柔らかい米粒に、炙り魚の旨味が一緒に溶けて絡まる。それはすぐに口の中に広がって、基子はふにゃっと頬が緩んだ。
「美味しい——」
「だろ。俺もたまにこうやって食べるからさ。気に入ってもらえて良かったよ」
「へー、たまに作るんだ。でも、そのわりには——」
「炙るの下手くそで悪かったな!」
不貞腐れ気味に言う恭平。
それが面白くてついついからかってしまう基子。
南台所神社で起こった不可思議な出来事の不安だった気持ちが、彼のおかげで何となく薄れた気がした。
第一章ここまでです。
次回から第二章になります。




