第一章 其ノ拾伍
目が覚めると、基子は神社の外で倒れていた。
サワサワと風が木の葉を撫でている。
「い、今の何?」
慌てて起き上がり辺りをキョロキョロ見回す。しかし、瞳に映る景色は平和そのもの。変な汗が背中をつつっと流れた。
すると、がさっと背後でもの音がした。ビクッと肩が大きく跳ねる。基子は恐る恐る音のした方を伺うが——そこにいたのは小さな鳥だった。
「もう! 脅かさないでよ……」
大仰に息を吐きながら呟く。その声に驚いたのか、鳥はバサバサと飛び立って行ってしまった。
鳥の軌跡を目で置い、基子は立ちあがろうと足を動かした……が、思うように力が入らない。
「あ、あれ?」
掌を見ると、フルフルと小刻みに震えてる。
「参ったなぁ」
たははとわざとらしく笑いながら、ぽりぽりと頭を掻く。
先ほどまでのことが夢か幻かわからないが、どうやら基子が今ここにいることは確実に現実のようだ。
しかし——耳にこびりつく人間の断末魔。目に焼き付いた愉悦の表情を浮かべる『鬼』。炎に焼かれ、誰かの名前を叫びながら蹲る女性。
当たり前だが、基子の記憶の中にそんな思い出はない。寧ろ普通の人と同じように学校に行き勉強したり、大変だけど好きな仕事に就いて頑張って働いている。もちろん、人並みに恋愛もしてきた。強いて言えば、この島に来た理由が「彼氏に振られたから」ということくらいで、それだって至って普通の理由だ……と思う。しかし、こんな所であれやこれやと考え込んでいても仕方がない。基子はふうと大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。
その場にペタリと座りこみながら、なんとなく木々の隙間から見える空を眺めてみる。遥か奥の方に、黒い雲が広がりを見せていた。もしかしたら明日あたり天気が崩れるかもしれない
基子は「よし」と小さく呟くと、ゆっくりと立ち上がって元来た道を引き返した。
そして、玉石の階段まで戻ると、基子は「まじかぁ……」と声を漏らした。
来る時は必死に登ってきたので気が付かなかったのだが、上から臨むとかなりの急勾配だったことに今更ながら戦々恐々とした。
「こ、これを降りるのかぁ……」
昨日の円香と佐々木の言葉が脳裏の浮かぶ。
基子は階段側に体を向け、後ろ向きになると、足を滑らせないように足元を確認しながらゆっくりと一歩ずつ降りていった。
登ってきた時よりもかなりの神経を使い、時間もかなりかかっていたのだろう。疲れていたせいもあったのか、気が緩み、ズルッと右足が石段を踏み外した。
「やばっ!!」
反射的に右手を伸ばし、石段を掴もうとした。しかし、それも運悪く滑ってしまう。
——お、落ちる!
と思ったのも束の間。膝をぶつけ、ずずずと少しの距離を下にさがっただけで、右足はピタッと止まった。
思考が止まり、一瞬考え込む。
右足を見ると、ところどころ草が茂った平坦な地面が目に映った。その横にはボロボロの鳥居が立っている。
「良かったぁ——って、えっ? 階段、終わり?」
「何してんだ?」
突然背後から声がした。ビクッと肩が跳ねる。
首だけで声のした方を振り返ると、そこには見知った顔が怪訝そうな表情を浮かべこちらをみていた。




