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アイドル伝説

「この国でトップのアイドルはどのグループか決めようby pallet」


2グループの活躍によりアイドルブームが加速していく中で、密かに第3のアイドルと噂される2人組がいた。

彼らは一心同体と言われるほど息の合ったコンビネーションで魔物を倒す事を生業としていた。彼らの名は…"tears(ティアーズ)"

アイドルと噂されているにも関わらず、彼らはアイドル業に興味がなく、palletからの対決の誘いを断っていた。

そんな彼らについて紹介していこうと思う。

実はtearsの片割れにも現実世界からやってきた者がいた。

数年前の2人が出会う事となる日、それぞれに数奇な運命が起こっていた、のちにそれが彼らの名前の理由となる。


(はる)ー!今日はちゃんと学校に行きなさいよっ!って、また音楽の勉強なんかして…まったくもう!!」

仕事に行く前の母が、世間体を気にして苛立った様子で俺の部屋に訪れるやないなや、机の上に散乱する楽譜を見てさらに激怒する。

人間関係が上手くいかず、学校に行けなくなった俺。

世間体と学力が全てと考える母に、俺の唯一の娯楽である音楽を全否定され続ける日々に俺は正直うんざりしていた。

(このまま生きてたっていい事なんてあるのかな、かと言って自殺したら、死んでも文句言われ続けそうだな…)

そんな事を考えながら、ふらふらといつものコンビニへと向かう、すると偶然、信号無視をした車が小学生の女の子に突っ込もうとしているところが見えた。

「危ない!」後先考えず飛び込んだ刹那、(こんな死に方も悪くないか、最期に誰かのヒーローになったんだ。)

不思議と痛みは感じず、全てがスローモーションの様に見えた。

ぼやけた視界の中で、怯えた表情の女の子が涙を浮かべて俺を見ているのがわかった。

「よかっ…た、無事で…」(そんな悲しそうな顔をしないで、俺は自殺を考える様な人間だったんだから。)

遠くなる意識の中、救急車の音が聞こえた。


次に俺が目を開けた時、視界一面に見慣れない景色が広がっていた。あちこちに生い茂る植物、車の騒音のしない静けさに現実世界でない事を悟った。事故の痛みも傷もない、一度は失った、なくても良いと思っていた命だというのに、気がつけば生きられる事に対しての感涙を流していた。


すると、遠くから空気に溶ける様な美しい声が聞こえてきた。

近づいてみると、そこには長く淡い水色の髪を揺らし、儚げな所作で魔物を葬る1人の青年とも少女とも似つかない様な外見をした者がいた。気だるげなレモンイエローの瞳で晴の姿をとらえた人物こそが、tearsの片割れの(しずく)その人だった。

雫は晴を見ても何も言わない、無言のまま見つめ合っていると、雫の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる事がわかった。

「何かあったの?」たまらずそう尋ねると、目の前の人物は静かに口を開いた。

「僕は、今日家族を亡くしたんだ」思いがけない返答に言葉が詰まる。

「僕の家は、代々歌で魔物を葬る事を生業としていたから、いつかこうなる事も覚悟の上だったんだ…」声の調子を変える事なく、低い声で続けた。

寂しげな彼の様子に、会ったばかりだが居ても立っても居られなくなり、「じゃあ、これからは俺が仲間になるよ!」そう口走っていた。

彼は、一瞬だけ目を見開いて、ほんの少し嬉しそうな顔をした。「僕は雫。」挨拶がわりに名前を伝えられただけだったが、彼とはうまくやっていけそうな予感がした。

「俺は晴!」幼い頃の様な曇りのない笑顔を取り戻した晴は、雫に笑いかけた。


天気雨でも土砂降りの雨でも、誰かの気持ちに寄り添いたい。

魔物によって涙を流す人をなくしたい。

そんな思いから、tearsは結成された。



「palletからの挑戦状!?」five Pointed starのセンター、星乃燈里が驚きの声を上げる。

(受けて立ちたい、けど、もしここで負けたら…)

燈里に一抹の不安がよぎる。

星乃燈里は、とある芸能一家の生まれで、幼い頃から音楽の申し子、天才児と囃し立てられていた。

しかし、大きくなるにつれて周りが燈里の優秀さに慣れていき、身長が伸び悩んだ事も相まって、やがて誰からも注目されなくなった。目立ちたい一心で髪をピンク色に染めてみたものの、何も変わらず、いくら努力しても才能のおかげだと憎まれ、ユニットを組んでも自分に対する大きすぎる期待や僻み、性格の不一致から上手くいかず、いつしか落ちこぼれと呼ばれる様になった。

今のメンバーは、燈里にとってやっと見つけられた、心を許せる他人、親友や本当の家族のように大切な存在なのだ。

対決に負けたからと言って燈里に対する態度を変える人達ではない、そうわかっている。そう思っているからこそ、もしもが起こってしまった時が怖いのだ。

「大丈夫?燈里。」燈里の顔色にいち早く気づき、翔太が声をかける。他のメンバーも燈里の周りに集まり、心配そうに覗きこんでいる。

(お節介で、優しい人達。だから大好きなんだよ…)「大丈夫に決まってるでしょ!」

温かくなってゆく胸を押さえながら、燈里が微笑むと、つられて周りも笑顔になる。

それと同時に、燈里は挑戦状に受けて立つ覚悟を決めた。

「対戦、受けていいでしょ?リーダー。」翔太の顔を見ると、「もちろん」と笑みを浮かべた。

「ライバル!本格的になってきたね!」響も興奮気味な様子で、奏の顔色を伺っている。

「勝っても負けても、アイドルの名は広まるし、いいんじゃないかな?」律も気合いに満ちた表情で頷いている。

そんな様子を見てさらに気合の入った奏は、「いつも曲を作るときは最高の曲だと思って作ってるけど、今回も最高の曲を作るよ!!」と宣言する。燈里の不安も消え去ってゆく。


お互いに衣装も曲も新しいものを用意して、ライブ対決の日がやってきた。

先行は、挑戦を申し込んだpallet

「見せつけてやるぜ、俺達の宵!」「夢にも出るほど、忘れられない思い出を刻み込むよ!」

天音と壮牙のダブルセンターの声が宴の始まりを告げる。

「「我ら/私達の新曲、rasond'tre(レゾンデートル)」」

己の生きる、信じる理由、存在意義を示す様にルークとサシャの声が重なる。黒と紫を基調とした妖し気な美しさを持つ衣装が揺れ、音楽が始まる。

「甘美なまでのnightmare」静けさの中から、天音の持つ殺気がパフォーマンスの独特の存在感に変わってゆく。

「誘い込まれさまよう君は幸か不幸か」サシャの低く落ち着いた声が艶やかに惹き込む。

「深い夜に溺れて」ルークの誘う様な仕草と、脳に直接響かせるような技巧が溺れさせていく様に魅了する。

「消えない傷跡を残す」愛らしさの反面、はっきりと存在を主張する狼の耳と尻尾が、幼さの中に刺激を生み出している。


コールパートに入りsayの全員の掛け声の後にそれぞれが自分の存在意義とも言える宣言を叫ぶ

「say」

「闇夜に舞い」 武芸の様に舞い踊るサシャ

「say」

「暁に歌う」  熱のこもった歌い方で年相応の朝焼けを呼びそうな歌声に変わる天音

「say」

「狂おしいほどの愛を囁く」 微笑みかけつつみ込む様に歌い上げるルーク

「say」

「心を漆黒に染め上げる」 悪ぶってる姿がさらに愛らしさを加速させている壮牙の素直な声が噛み付く様に歌う。

「刻み込めレゾンデートル」

妖しげで力強い4人の声が重なり、palletの全力の自己主張とも言えるパフォーマンスは終了した。


天才肌のメンバー揃いとも言えるpalletのパフォーマンスに、秀才揃いのfive Pointed starは少し緊張したが、自分達の曲名を思い出し、少し落ち着きを取り戻した。


「たとえまだ青い未熟者だとしても、仲間と共に羽ばたきたい」

リーダー、翔太の温かな声がメンバーを勇気づけてゆく。

「ぼく達がこの世界のfive-star!そしてこのぼくが一番星だよっ!!」自信あり気に宣言する事で自分の心を平常に保つ。

「皆様に幸せを届ける存在でありたい」律の心からの願いが伝わってくる。

「「聞いてください!僕/俺達の新曲、Blue Wind(ブルーウィンド)‼︎」」似ていない様で似ている仲良し双子の声が重なる。


「どんなに小さな翼だって きっと羽ばたけるよ」燈里の甘く艶やかな声が勇気づける様に力強さを帯びる。

「折れた羽だって もう一度輝ける」律の優しい声が温かな空気を生み出す

「美しい世界旅立とう」気品と華のある歌声が世界の美しさを想像させる。

「大丈夫だよきっと」明るく元気な響の声が悩みを吹き飛ばす

「それぞれが色とりどりの光放ってゆく」翔太の繊細な表現が周りにカラフルな光を見せている様だ。

全員でのサビパートに入る

「そうさみんなの five-star

幸せ届ける Blue Wind

闇夜切り裂く shooting -star

全力輝け super -star

もっともっとカラフルにfive pointed star」

ラスサビを繰り返し、

「虹を越えて飛び回る Blue bird

負けない絆で突き進め star light」

タイトルとグループ名をイメージさせる様なラストの歌詞を飾った。

家族の様な絆と、五色の光を放ちどこまでも進んでいくイメージを自分達と、応援歌としての役割も果たす様なポップで爽やかな楽曲を披露した。


投票権は1人1票、勝敗は観客に委ねられてらいる。

その観客の中にtearsの姿があった。

実際そうではないので勝負は受けなかったが、自分達がそうなのではないかと噂されるアイドルという存在を一目見てみたいという雫たっての希望でステージを見にきていたのだ。

2組のパフォーマンスを見終わった時、雫の瞳には光が宿っていた。「晴、僕らもアイドルにならないか…?」珍しく雫が自分から何かをやりたいと言い出した事に少し驚くと同時に、たまらなく嬉しい気持ちになった晴は、二つ返事で了承し、その手を引いた。

ステージへ駆け上ると

「ちょっと待った!本日アイドルデビューするユニット、tearsも仲間に入れて欲しいんだけど?」

目的は違ったといえ、異世界で長く歌っていたものとしての威厳を込めて晴は胸を張った。

「アイドルになる気はなかったけど、君たちのステージに感動して憧れちゃったよ。」

感情の機微が小さめの雫には珍しく、少し饒舌になってそう続けた。

2組グループは、突然の登場に少し驚いたものの、その確かなオーラに圧倒されていた。

2人が披露した曲は、2人で作った唯一の歌、生きる事を歌ったバラード、晴れの雫。

「いつ終わりが来るかわからない命だけど」「その一瞬が眩しいんだね」理由は違えど命の脆さ、尊さを良く知っている二人のフレーズには重みがあった。

「一緒に歌って/歌わせて 生まれ変わっても巡り合おう」

大切な人との別れを乗り越えて出会った互いの強い絆の再確認と、自分が生き抜いた後の大切な人との再会を願う余韻を残した。

もとの相性の良さに、ずっと歌い続けていた曲だけあって、雫の表現の儚さと晴の希望に満ち溢れた表現がしっとりと溶け合って、一心同体と言われるのも納得のパフォーマンスが繰り広げられた。


結果は…

3グループ引き分け。

しかし、どのグループも後悔はなかった。

このライブはアイドル伝説となり、新しく数々のアイドルの星々を生み出す事となった。






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