デビューライブと、それまでの軌跡
Five pointed starを結成したはいいものの、ぼく達はまだ何も始まってはいなかった。
事務所もない今、活動は全て自分達にかかっている。もっとも、事務所に所属していた頃も仕事はあまりまわってこなかったのだが。
「まず、何をしようか?とりあえず自己紹介、とか?」おそらく最年長であろう翔太は、積極的に仕切ろうとしてくれた。
「そうですね、メンバーの事を知っておく事は大事でしょうし。」落ち着いた雰囲気の律は、翔太の発言を肯定する。
「じゃあ、言い出した俺から行くね。って、ちょっと緊張するなぁ…」覚悟を決めてから語り出す。
「名前は、一条 翔太歳は24で、身長は190cm。君達とは年が少し上かもしれないけど、仲間とか家族みたいな関係になれたらいいな!」
少し照れたような表情を浮かべ、言う翔太に人懐っこい響は子犬のようにじゃれつき、「じゃあ、翔兄だね!」と言った。
「ははっ、照れるなぁ。でも嬉しいよ!」と響の頭を撫でた。響は気持ちよさそうに目を細めている。
「仲良くしましょうね、翔兄さん。」さっと隣へ滑り込み、そう言う奏の微笑みには、不思議な圧があった。
「奏までそう呼んでくれるの!?」翔太の天然オーラはそれを吹き飛ばし、翔太に撫でられた時、奏の中でも好意へと変わった。
「弟の兄なら、僕の兄でもありますからね。」不機嫌そうな顔を浮かべようとしているが、その顔には喜びが隠せていない。
「喋ってばかりいないで、次行くよ!ぼくは星乃 燈里。16で、身長169。ぼくは自分にも周りにも厳しくいたいから、しっかりついてきてよね!」腕を組みながらそう言う燈里の態度は、外での態度と随分違う。が、その中に優しさが宿っている事を、ここにいるメンバーはどことなく感じとっていた。
「じゃあ、とーりんね!」響があだ名をつけ、燈里は呆れたような声を上げる。
その影で律は喉元を押さえ、服で冷や汗を脱ぐっていた。
震える体をなんとか沈め、冷静を装って律は続けた。
「僕は白雪 律、19歳で、身長は180cmです。クールキャラか、紳士キャラで行こうと思ってます。」
「りっつん真面目!」響がまたあだ名をつけ出すので、奏は可愛らしいと思い、響の頭を撫でている。
その様子を、微笑ましく見守りながら、この人達とは本当の仲間になりたいと思う。
りっつん、初めてつけられたあだ名のひびきはとても心地良かった。
「では、次は僕が。綴 奏歳は18で、175cmです。お気づきだとは思いますが、そこにいる響とは双子です。できれば、グループの歌の作詞作曲を担当したいと思っています。」
作詞作曲という単語に、一同は目を輝かせ、問題が一つ解決したと喜んでいる。
「はいっ最後は俺が!綴 響18歳で奏にーさんの弟!173cmだよ。早くみんなで歌って踊りたい‼︎」その元気の良さに、耳と尻尾の幻覚が見えた。
「それと、衣装でしたら、僕ができると思うんだけど、だめかな?」
メンバーとの距離の取り方がわからず、敬語とタメ口どっちで話したらいいかわからない。
「少なくとも、翔以外のぼく達は年下なんだし、変に気を使わないでいいよ、律。」意外にも燈里君が自分の心情を察してくれる。
「うん、ありがとう」と微笑むと、ふいと顔を背けられてしまう。
「そういえば、俺以外は未成年なんだね!」と翔太さんの声が響く。
「私の事は成人済みと同等に見ていただいて構いませんよ。」と仕事用に考えていた律のスイッチが入る。
(大人に見られたいんだなぁ、かわいい)と思いつつも「そうさせてもらおうかな?」と素直に受け取るフリをする。
律は、一瞬パッと表情を明るくして、すぐに澄ました顔になり話を戻した。「僕の趣味は、ファッション誌を見る事と、裁縫なので、必ずみんなに似合う服を選んで、アレンジできると思うんだ。だから、僕に任せてくれないかな?」
律の真剣な声と、少し怯えたような表情に、4人は笑顔で頷く。
不安は、たちまち「よかった…絶対に成功させて見せるよ!」と力強い表情へ変わる。
「りっつんの衣装楽しみだなぁ!」「応援してますね、律さん。僕も頑張りますよ〜」と似たように微笑む双子。
「困った事があったら、なんでも言ってね!」と背中を押してくれる翔太さん。
「成功させてくれないと困るよ!」と毒舌な燈里君、これも彼なりのエールなんだと受け取っておく事にする。
(今度こそは絶対に克服したい、あのトラウマを!)笑顔の裏で強く拳を握った。
「次はポジションについてだけど、ぼく、センターやりたいんだよね。」と燈里君が口にする。
確かに、燈里君はこの中で1番小さいし、メンバー以外の人の前で振る舞うときは、キラキラと輝いてとびきりかわいい男の子だ。
「身長のバランス的にも、」と口にした翔太さんを燈里君が遮り、「ぼくがかわいいからでしょ!?」とぶりっ子ポーズでウインクをして見せる。
自分で自分をかわいいと言っても嫌味に聞こえないところが、燈里君の良さでもあると思う。
「まあまあ、異論はないと思うけど、レッスンしてみない?」僕の提案に、みんなハッとしたような顔をする。
僕は自分で言っておいて、緊張で背筋がひやりとする。(大丈夫、お願いだから大丈夫であってくれ)と心の中で祈るように繰り返す。
まだ自分達の曲はないのでそれぞれ自由に、一人づつパフォーマンスを披露する事になった。
最初は奏のパフォーマンス、自身のオリジナル曲を披露しながら、歌い踊る。
奏の、上品でしっとりとしつつも華のある歌声に、指先まで優雅なダンスパフォーマンスが良く合っていて、気高い雰囲気を纏っている。
曲の後半に、奏たっての希望で響を呼んだ。響は兄の誘いに飛び込んで行ったが、奏の表情はどこか険しかった。
(この曲は、響と二人でデビューできるようになった時のために作っていた曲だ。振り付けを考えたのは響で、よく二人で練習していたから、覚えているはずだろうと思って呼んだ結果、やはり予想は当たっていてとても良いハーモニーが生まれ、ダンスのタイミングもぴったりだった。)
実は奏にはいくつかデビューの話があった。しかし奏は、ずっと響とデビューしたいと思っていたので、いつも弟と一緒ならデビューすると断っていた。
事務所の者達は、奏と響のパフォーマンスは方向性が違うため、いくら双子でも一緒にデビューしたら合わないと決めつけ、奏の希望をあっさり切り上げてしまった。
挙げ句の果てに、響を日によってパフォーマンスの質が変わる二流はデビューなんてできるわけないと罵り、去っていった。
嫌な記憶が蘇り不安になるが、隣の響のパフォーマンスはとても生き生きしていて、こちらまで元気になれる。
三人の反応も上々だ。
それを見て安心した奏のパフォーマンスの質も自然と向上した。
二人で息の合ったフィニッシュを決めると、暖かな拍手に包まれる。
「さすが双子、息ぴったりだね!」翔兄さんの感心したような声に胸が暖かくなる。
「響君の明るくてまっすぐな歌声と元気なダンスに、奏君の上品さが合わさって、独特な雰囲気なんだけど一体感があってすごくよかったよ!」と律もはしゃいだ声を上げている。
「二人がぼく達の間に入ってくれたら、場が締まりそうじゃない?」燈里も満足そうに頷く。
次は燈里がパフォーマンスを披露する。
歌い出した瞬間、燈里の纏う雰囲気がガラリと変わった。
惹き込まれる、甘くて艶のある歌声、低い声を出しても大人びた色気に変わり、高音を出しても裏返る事なく美しいハイトーンボイス。
ダンスも、自分の可愛さを上手く全体にアピールする様に、観客である4人とバランス良く目を合わせたり、ファンサをした。
燈里のパフォーマンスが終わる頃には、燈里がセンターになりたいと言うことに異論を唱えるものはいなかった。
翔太のパフォーマンスも凄かった。
歌声に繊細な感情がこもっていて、曲によって声質を見事に使い分けているようだった。
それでいて、ダンスは体格を生かした大胆でキレのあるもので、でもやはり、同じ動きをしていてもその中には感情が伝わってくる何かがあった。
(歌の表現が繊細すぎて、アイドルとして舞台映えしないと言われた俺だが、あの子達の反応はどうだろう…)
恐る恐る顔を上げると、みんな微笑み、拍手を送ってくれた。
それと、最年長という事もあり、翔太はグループのリーダーになった。
いよいよ、律の番が来た。
息を深く吸い込んで声を出そうとするも、空気が抜けていくばかりで、歌声が出ない。
(やっぱり僕は…)と涙が溢れそうになる。
みんなは、何が起きたかわからないというような顔をしているが、燈里君だけが何かを察したようで、僕の前に無言のまま歩み寄る。
そして、僕の顔を覗き込むと、「もしかして律、緊張すると歌えなくなるの?」
図星を突かれて俯くと、燈里君は眉を潜めて、「いい?自分が自分に自信持たなくて誰が褒めてくれるの?自分に厳しいのはいい事だし、緊張はしてもいいけど、自分の声、アイドルとしての魅力の一つを自分で潰すな!ぼく達はたとえヘタクソだとしても、君の声が聞きたいの!!」
自分が自分に自信を持たなくて誰が褒めてくれるの?その台詞に、16歳とは思えないほどの重みを感じて、彼がなぜ、自信家のあざとかわいいキャラを演じているのか、少し分かった気がした。
出会ってまもない年下の男の子に初めて本気で叱られ、喉が軽く、感覚を取り戻していく。
(今なら、歌えそうな気がする。)
もう一度深呼吸をして、歌おうとすると、久しぶりの自分の歌声が聞こえた。
(やっぱり、歌って気持ちいいな…)忘れかけていた感覚が研ぎ澄まされていく。
持ち味の、スマートですきのないダンスパフォーマンスも
冴え渡り、律は自分を取り戻す事に成功した。
「やっぱりいい声してるじゃん。おめでとう、よかったね、律。」燈里君の口から出た素直な褒め言葉に少し照れてしまう。
「優しく透き通るいい声だね!ダンスも完璧だったよ。」と褒めてくれる翔太さん、「その素敵な声で、僕の曲を歌っていただけるなんて、とても嬉しいです。」「かっこいいダンス!ずっと聴いてたいきれーな声!」と肯定してくれる奏君と響君、「さっきはああ言ったけど、律のいいところは、これからぼく達がたくさん褒めてあげるからさ!…ついでに、改善点もビシバシ言うから、覚悟してよね!」と宣言する燈里君に、僕はもう大丈夫だという確信を覚えて、心地よさを感じた。
クエスト1 ファンを獲得しよう!
燈里の場合
(あの人には弟のように)
「お姉ちゃん!今度、ぼくステージに立つんだよっ!見に来て欲しいなっ」うるうるとした、だめ?訴えかけるような目で見上げると、こくりとうなずいてくれた。
(あの人にはぶりっ子全開かな)
「ねぇねぇおにーさん、ぼく、今度ステージに出るんだけど、来てくれるよねっ!?」ぶりっ子ポーズで上目遣い
(今度は少し大人っぽく)
「君、かわいいね。君みたいな子が見に来てくれたら、ぼく頑張れちゃうな。来て…くれるでしょ?」後半に近づくにつれて距離も近く、声のトーンもだんだん下げていく。
こうして、燈里はそれぞれの人を見たアピールでファンを増やしていった。
その様子を、メンバーは少し離れたところから感心して見ていた。
奏&響の場合
「にーさん、俺ちょっとお腹空いちゃった!」
「そうなの?響。じゃあファン集めは腹ごしらえの後にして、お菓子でも買いに行こっか。」
困ったような顔をして甘える響と、にこにこしながら甘やかす奏、仲の良い兄弟の様子に主にご高齢の方々が微笑ましく見守っていた。
「あれ?にーさん!俺達、何もしなくても不思議と注目を集めてるよ‼︎」
響のキラキラとした瞳に、「そうだね、響がかわいいからだよ〜」と言いながら自分の分も与える奏に、見ていた人々はもはや神々しささえ感じていた。
翔太の場合
(キッチンをお借りして料理を作ったから、街の人へ配りに行こう。)
…
「お兄ちゃんの料理美味しい!」「私にもちょうだい!」
子供達やその親に大人気!
「ぜひ、俺達のライブにも来てくれたら嬉しいな!」
「はーい!」料理を食べている人々の声が揃う、聞いていそうで聞いていないと言うのに、翔太は大成功だと喜んでいた。
律の場合
「なんでもお手伝いしまーす!」
何でも屋と書いた看板を持って歩いては、声をかけられた人々を助けていた。
律の存在は町で少し有名になったものの、その評判はアイドルではなく、心優しい何でも屋さんだった。
「ちょっと!ぼく以外、アイドルっぽい事してなくない!?」燈里の嘆きも、満足気な彼らには届かなかった。
クエスト2 デビューライブを成功させよう
ライブの前、彼らはわずかな時間を惜しんで様々な調整をしている。
それぞれの衣装に身を包んだ彼ら。
律は、王道アイドルらしいスタンダードなもの、全ての衣装のベースにもなっている。
燈里は、丈が少し短く、ワンポイントのフリルや首元に宝石のレプリカが1つ輝いている。
奏と響は、同じ形の衣装の色が反転したものだ。
翔太は、動きやすいからという理由で胸元が大きく開いたデザインとなっていた。
僕らのデビュー曲、shooting star nightは、わずかな時間で人々を魅了し、心に焼き付いて離れない、流れ星の夜のようなライブにしたいという願いが込められている。
わずかな時間で経験した事のないドキドキを感じさせようと、乙女ゲームのようなセリフパートのアレンジも加えられている。
「煌めけ!five pointed star!」
「この世界にアイドルの名を轟かせよう!」
「おー!」
センターとリーダーの熱い掛け声に返事をして、みんなで一斉にステージへ飛び出した。
そこには、燈里がファンサをした人々、奏と響を見守っていた人々、翔太に懐いていた子供達、律が助けた人々が大勢集まっていた。
「こんばんはっ!five pointed starですっ!」
センターの燈里の挨拶から始まり、左隣の奏も続け
「今回お聞き頂く曲を作詞作曲した、綴奏です。曲の中に僕達の思いを込めて作ったデビュー曲、その思いを届けられるようにパフォーマンスも頑張ります!」
奏の挨拶に一斉に頷き、いよいよ曲が始まった。
「流れ星のような夢を届けよう〜♪」燈里の甘く艶やかな歌声に、両サイドの奏と響がハモる「僕らが世界を照らす光さ」
三人が前へ出て、スポットライトに照らされる。
「運命に導かれ」透き通る晴れやかな歌声が澄み渡る。歌いながら前へ出て、奏の隣に並ぶ律。
「巡り合った僕ら」その出会いの喜びを感じさせるような歌声の翔太、前へ出て響の隣へ並ぶ。
燈里の自分の可愛らしさを伝えようとする動きだけでなく、もとの洗練された技術が垣間見え、ファンサや表情にまで気を使われている。
律は、練習通りのスマートさだが、少し緊張しているのか、指先の動きが硬い。しかし表情は笑っている。
翔太は、人懐っこそうな満面の笑みを浮かべて、楽し気に踊っている。はだけた衣装から見える筋肉は、密かにファンを魅了していた。
そのパフォーマンスを、息の合った双子のダンスがうまくまとめて一つのステージに仕上げている。
セリフパートに入り、
翔太 「この命ある限り、君と共に在りたい。さあ、俺のもとへ飛び込んでおいで」
少し照れた表情と、ちらりと見える肌が、そのセリフをリアルさと色気を持ったものにしている。
律 「あなたと出会えた奇跡に感謝します。今宵、私と永遠の愛を誓っていただけませんか?」
あえてビジネス風に淡々と言うと、クールな紳士の雰囲気が溢れ人々を魅了する。
奏 「いつからでしょうか、こんなにもあなたを守りたいと思うようになったのは…ぜひ、僕を信じてついてきてください」
奏の上品さが、月明かりの似合う大人の色気を感じさせ、先ほどまでとうって変わった雰囲気でドキリとさせる。
響 「君とならどこへでもいける気がするよ!ねぇ、俺とずっとどこまでも一緒に行こう‼︎」
響の真っ直ぐで純粋な言葉と表情の真剣さに、射抜かれる。
燈里 「油断してると危ないよ、ぼくだって男なんだから。それとも…ぼくに捕われてみたいの?」
かわいいだけでない、悪戯っぽく言う燈里の魅力が短いセリフにこもっている。
最後は全員でのパートだ。
「(shining star)
魔法のような時間を生み出すよ
(shootingstar)
闇を光に変えて
(to night)
宝物作るよ (希望を溢れさせて)」
ポーズを決めながら、
「We are Five Pointed Star!」
そのステージは、見ていた者の心を照らし、アイドル伝説の始まりの石杖を築いたのであった。