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scene_06 ひとまず一件落着?

 

 「お、お母さん!?」


 え?なんで抱きしめてくるの!?ここ外なんだよ!?他の人(龍宮さん)も居るんだよ!?

 うぅ···お母さんてもしかして結構感受性が高い感じなのかな?

 確かに俺よりもわたしは霊力が多いみたいだから届きやすかったかもしれないけど、普通ここまで取り乱すことなんてないはずなんだけど···

 言霊の調べはあくまで霊能力()()()。分類上は裏側の技術にはなるけれど、そこまで格式ばったものでもない。あくまで魂に直接訴えることで動揺を相手に与える技術だ。それこそこんなことを全く知らない純粋な表側の人たちにも知らずにこれができてしまっている人はいる。というか、有名な歌手や役者さん、作家さんなんかの2割くらいは知ってか知らずかしていることだ。

 それでここまで取り乱すなんてよっぽど感受性が高くないと、わたしが娘だということを差し引いてもおかしい。実際、一緒に聴いてた龍宮さんは驚いてはいても落ち着いている。むしろ、お母さんの奇行の方を驚いているまでありそうな感じがするよ。

 とりあえず、確認も兼ねてお母さんを落ち着かせよう。

 お母さん、本当に抱きしめる力が強いよね。ちょっと苦しくなってきたし···


 「お母さん、落ち着いて?わたしはここに居るよ?何処にもいかないから、はずかしいし離してほしいな?」


 込めるイメージは綾と一緒に暮らし始めた頃、不安や恐怖、寂しさから精神的に不安定だった綾をあやしていたのを色々あって綾側からフィードバックされたもの。綾の方の感情なんかも全て流し込まれたから安心感とかが凄いんだよね。まぁ、個人的にはめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。綾から見た俺の印象といい、これを流し込まれた時の状況といい···

 まぁそれは置いといて、今はお母さんだ。感情までは込めてないからそれこそ普通は殆ど何も感じない筈だけど···あっ、抱きしめが緩くなった。


 「ふぁあぁ、あっ、ゴメンね澪ちゃん!お母さんたらなんか澪ちゃんが遠くに行っちゃいそうな感じがして···龍宮さん、お見苦しいところをお見せしました。すみません」


 うーん。これは当たり···かな?

 わたしが遠くに行っちゃいそうっていうのは、懐かしさとかから寂しさが呼び起こされてそこからわたしが寝ていた時の不安が蘇ったと考えられるし、さっき一瞬顔が緩んだしね。

 ただ、完全に正解とも言い切ることもできないかな。わたしが知らないだけでお母さんにも色々あるだろうし。ただまぁ、今後お母さんの前では極力これを使わないようにしよう。それともコントロールを鍛えてお母さんを対象外にする?わたしに霊能力の才能がもしあるならそっちの方がが利便性がいいし、とりあえず練習だけは今後していくことにしようかな。うん。

 さて、お母さんはこれでひとまずいいとして、まずは龍宮さんに感想を聞いてみよう。お願いします。どうかお母さんが折れそうな感想を下さい!


 「おじさん。わたしの歌、どうでした?」

 「うん、凄かったよ。おじさんのお父さんやお母さんを思わず思い出したぐらい、懐かしいと思ったよ。澪ちゃんはきっと、練習すればいつか沢山の人を笑顔に出来そうだ」

 「えへへ、ありがとうございます!」


 練習すれば···かぁ。

 お辞儀をしたら「お礼ができて偉いね」と褒めてくれたのは嬉しいけど、少し悔しいな。

 確かに歌う技術はさっぱりだったから、プロから見ればあくまで『磨けば光る原石』でしかないんだろうけどちょっとは自信があったんだけどなぁ。

 まぁ、これはあくまでお母さんを説得するためだし今は置いておこう。

 で、肝心のお母さんだ。


 「お母さん。わたし、ドラマとかにでてみたいよ!嫌なこととかもお母さんが言うみたいに沢山あるかもだけど、お母さんが助けてくれるなら頑張れるから!夏陰のママもけーけんはヒントって言ってたもん!どうしてもだめ?」

 「うぅぅ···確かに澪ちゃんがやりたいっていうのはやらせてあげたいけど···でも···」

 「藤崎さん」

 

 グラついてはいるけれど、やっぱり折れないお母さんに対して龍宮さんが声をかける。

 それにしても、そんなに芸能界というのは恐ろしい魔窟なのだろうか。

 いや、年相応の子供からしたら恐ろしいところではあるか。

 きっとお母さんとしてはやはり心配が大きいんだろうな。


 「ここは一つ、『可愛い子には旅をさせよ』と言うことで許して頂けませんか?さっきの澪ちゃんの歌はきっと武器になります。いえ、してみせます。それにですね、実を言うと私預かりの案件が一つあるのです。塩漬けの企画ですが今の状況には合致するものです。無論、それを断られてもこちらはきちんとサポートしますし、どうでしょう?」


 え?企画があるの!?そういうのは早く言ってよ!

 塩漬けだったってことは何か問題があって進んでないってことだけど、最悪断ることもできるみたいだしこれは絶対に逃せない大チャンスだよ!

 四の五のいってはいられない。ここはゴリ押してでもお母さんに「うん」と言ってもらわないと!


 「お母さん。お願い!」

 

 お母さんの腕をギュって抱きしめて、少し涙目にしてからの上目遣いでしっかりとお母さんの目を見つめる。

 これを幼い娘にされて堕ちない親は少ないだろう。男親はまず全滅だ。これの凄まじさはされる側として経験済みなのだ。俺の時も綾にこれでおねだりされて何度負けたか···両手両足の指じゃ絶対足りない。

 お母さんは女親だけどシングルマザーだし効くと思う。ちょっと罪悪感はあるけどここは堕とす!

 ごめんなさい、お母さん!けどお願いします!ここは折れて下さい!


 「···わかりました。確かに何事も経験です。甘えさせて守るだけが子育てではないですものね」

 「!ありがとう!お母さん!」

 

 勝った!

 これで色々考えていた手間が短縮できる!後はまぁ、わたし自身の努力とかの問題が殆どだし。

 これで後は穏便に裏と接触できるように、頑張ってそこそこ知名度を得なければ。

 なにはともあれ、関門の一つは突破だ。嬉しい!


 「ありがとうございます。では、契約の話はどうしましょう?こちらとしては、今からでも大丈夫なのですが」

 「すみません。それはまた後日にしていただけますか?私としてはもう一度澪と話しておきたいのです。それと、やはり心配ではあるのでこちらからいくつか契約の際に条件を付けさせて貰いたいのですが問題有りませんか?」


 龍宮さんも嬉しかったのか直ぐに契約の話に移ろうとしたけど、そうは問屋(お母さん)は卸さなかった。まぁ、雰囲気でゴリ押した感じだからね。一旦冷静になりたいのかもしれない。

 ···あれ?これって帰ったあとのお話でやっぱり無しとかなりかねない?

 ···まぁ、一度頷いてもらえたし、下手打たなきゃ大丈夫だよね?

 

 「はい。心配されるお気持ちは理解できますし、そういう親御さんも多いですから、こちらもその辺りは柔軟に対応しています。現に我が社に所属している未成年のタレントの多くが何かしらの条件付きで契約していますし」

 「わかりました。澪のこと、よろしくお願いします」


 あ、これは杞憂かな。これで反故なんてしないだろうし。

 にしても、タレントさんの多くが何かしらの条件付きってすごいなあ。親子で口約束ならともかく、事務所と正式に契約に条件が記載されてるなんてもしかしたら『テストで赤点を取ったら退所』なんて人もいるのかもね。


 「こちらこそよろしくお願いします。すみません。こんな話を急にしてしまって。ですが、私の感がこれは逃してはいけないと告げてましてね。全力でサポートさせてもらいます。では、関係部署と協議していくつかの契約プランを作成します。私も久々に雪沢君に会いたいですし、担当者とともに後日スタジオに伺わせてもらうということでいいですか?」

 「社長次第ですが、私は問題有りませんが···そこまでしていただいていいんですか?」

 「ハハハ。本当に私が雪沢君に会いたいだけなので構いませんよ。雪沢君ならこの手のことはおおらかですから許してくれるでしょう?」

 「はい、おそらくは···では、そのようにお願いします。もし、社長がNGを出した場合はこちらがここに伺いますので」


 その後、こんな感じで細々したところを軽く決めていき今日はこれでといった雰囲気になる。

 というか、雪沢さんの影響力すごいね。「わたし」の記憶上はかっこいいおばさんでしかないんだけど。


 「わかりました。では、本日はありがとうございした」

 「こちらこそ、ありがとうございました。澪ちゃん?」


 お母さんが「お願いしますを言いなさい?」みたいな感じで肩をポンポンしてきたからここは締めとして元気よく、そしてチャンスをくれた龍宮さんに感謝を込めて少し大きな声でお礼を言う。


 「ありがとうございした!よろしくお願いします!」


 こちらこそと言った感じで頷きを龍宮さんは返し、その後はお開きになった。

 龍宮さんはわたしたちをホールまで見送ってくれて、バイバイと頭をまた撫でてくれた。やっぱり龍宮さん、ナデナデ上手だなぁ。

 と、こんな感じでなにはともあれこれにて一件落着···だよね?

 

最後しりすぼみですみません

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