scene_01 目覚め
『お母さんを泣かずにお見送りできて偉いねぇ』
ーうん。僕男の子だもん。ママにもおばあちゃんにも心配なんてもうさせないもん!···けど、もっとママと一緒にいたいな。
『はい!子豚さんの役はとうまくん、あいこちゃん、ゆうじくんに決まりました!じゃあ次はオオカミさんの役やりたい人〜?』
ーだれも手をあげない···先生困ってるじゃん···早く積み木で遊びたいし僕がやろう···お遊戯会の役なんてなんでもいいし···
『皆さん!入学おめでとう!小学校はお友達が沢山います!皆で仲良くしていきましょう!』
ーあ!ばあちゃんだ!僕ここだよー!···ママはやっぱりお仕事だよね。
『今日は皆さんに新しいお友達を紹介します!』
ー前は友達あんまりできなかったけど、今度は上手く作れるかな?
『こっち来んな!ビリ菌が伝染るんだよ!』
ー足が遅いのが伝染る訳ないのに···誰か僕と仲良くしてよ···
『今日は転校生を紹介します。』
ー前は結局小学校のイジメが続いたけど、ここは僕のことなんて誰も知らないし今度こそ仲のいい友達作らないと!
『この本、お前も読んでるのか?』
ー君も読んでるの?···そう!そこが面白いんだよね!え!?図書室に置いてるの!?行く行く!
『ごめんね···また、引っ越ししなきゃいけないんだ···』
···仕方ないよ。お仕事だもん。···けど、本当はさよならしたくないなあ。
『貴方が当校を受験した理由は何ですか?』
ー何でも何もここに来てまだ1週間だし、とりあえず自分の頭で受かりそうだから。としか言えないんだよね。
“合格“
ーいや、自分で言うのもアレだけど良くあの志望動機で通したね!?
『ウチ、活動日も少ないしバイトとかも出来るよ?見学だけでもどう?』
ー母さんの手伝いになるかもしれないし、見るだけ見て行こうかな?
『いやあ!君一人でも入ってくれて助かった!おかげでギリギリ夏の大会に出れるよ!』
ー···まさか新入部員俺一人の部員数四人とは。いくら男でやってる人間が少ない華道とは言え···
『お!お疲れ!···そういえば今日でもう三年かぁ。最初は大丈夫かと思ったけど、こんなに頑張ってくれるなんて凄い掘り出し物だったよ!』
ー私も最初は夏休みの間だけのつもりだったんですけどね···なんだかんだ仕事中は一人称が変わるレベルにまでなるとは思わなかった。
『お前、ハイポートの時はすぐバテるのに徒歩行軍は得意だよな』
ーこっちはお前たちみたいにスタミナねぇんだよ!行軍だけは、まぁ、高校の時のバイトと部活の二重生活のおかげかな?
『職種と基地が一緒だったからもしかしたらとは思ったが、部隊まで一緒とはな!これからもよろしくな!相棒!』
ー確かに気心知れてるのは楽だけどな···
『随分あっさり辞めれると思ったろ?こういうことだ!逃さねぇぜ?相棒?』
ークソ!やけにあっさり除隊が認められると思ったら!こっちは陽のあたる場所で伸び伸びしてみたいんだよ!
『相棒本気か?こんなのこっち側じゃありふれた悲劇とすら呼べない事案だ。むしろこの娘は幸運なタイプだぜ?』
ーうん。理解ってはいるんだ。だけどさ···ここまで入れ込むと割り切れないわ。どうしても他の理由が要るなら、そう、逆光源氏とでもしといて。
『わ!おにーちゃかわいい!』
ーちょっ!綾!?なんでこの部屋に···ってお前の仕業かこの野郎!あ?化粧とか教えてやれって?そりゃ、母親代わりでもあるわけだし教えれるところは教えるけど···ってそれとこれとは話が別だ!
ー後は頼んだ。戦友。
「···ん。んぁ?」
あれ?ここは?病院のおへや?/見たことのない白い部屋だし、どっかの病院か?
確かわたし/俺は···くるまに撥ねられて/男四人に暴行されて···ってんん?
なんだこれ?どういうこと?何で記憶が二つもあるの?ヤバい、頭が混乱する。なんかどんどん思考が混ざっていくし。
よし、とりあえずこういう時は基礎的なことから確認していこう。
私の名前は霧島 祐希、29歳。好きな食べ物は親子丼で、嫌いな食べ物はゴーヤ。今は綾と二人暮らしで···
「っ澪!目が覚めたの!?」
「ひゃい!?」
わ!びっくりした。
部屋の扉が開いてお母さんが入ってきたと思ったら、びっくりした顔をして思いっきり抱きついてくるんだもん。思わず変な声が出ちゃったよ。
思いっきりすぎて少し苦しいし···
「もう!脳に異常はないのに二日も目を覚まさないから、お母さんこのまま澪が目を覚まさなかったらって···もう···」
そう言いつつ、強かった抱きしめを心地良いぐらいに緩めて泣きながら頭を撫でるお母さん。そっか二日か。そりゃ不安と心配でいっぱいにもなるだろうし、こんな行動もするか。もしも綾が似たようなことになったら俺も同じことしそうだし···
「ごめんなさい、お母さん。それとありがとう。わたしは大丈夫だよ」
「もう···!もう···!」
うん。これはしばらく開放されないかな?まぁ、心配かけちゃったしお母さんの気の済むまで状況の整理を続けよう。
とりあえず、今の思考的にも意識の主体は藤崎 澪で間違いないっぽい。
それじゃあ俺の記憶は何なのか?
普通に考えれば、車に撥ねられてから今までの眠っていた二日間に見た夢の類、いわゆる邯鄲の夢だっていうのが一つ。可能性としては無難だし、誰かに説明するならこれの方が受け入れられやすいと思う。
それとは別に考えられるのは、車に撥ねられた衝撃か何かで前世の記憶が蘇った可能性。
そのまま言えば危ない人認定待ったなしだけど、わたしの記憶と俺の記憶とを比べあわせてみると恐らく正解はこっちだ。
前世の記憶じゃここまでしっかりとした記憶の継承は机上の空論だったけど、転生自体は裏側じゃ珍しくはあってもあり得なくはなかった。
もっとも、これが人為的なのか今世の才能による偶発的なものなのかはわからないし、それはひとまず置いておいて後で色々考えよう。
今は落ち着いてきたお母さんが優先だ。
「う···ふぅ···澪ちゃんごめんね?暑かったよね?」
「ううん!大丈夫!澪もお母さんを心配させてごめんなさい」
これはわたしとして紛れもない本心。
今回だけじゃない。ここ最近のわたしはなにかとお母さんを困らせていた。それは色々思うところがあってのことではあったけど···俺の記憶が入ったことでそれは成長に伴う反抗期でしかないとわかってしまった。
「フフ。いいのよ。こうして目を覚ましてくれた訳だし、別に澪が悪い訳じゃないんだから」
「ありがとう。大好きだよ、お母さん」
そう言って今度はわたしからお母さんに抱きつく。
わたしはまだ4歳なんだし、甘えたって全然不思議じゃない。むしろ、今の状況なら甘えない方が不自然。
だから、これは決してナニかを満たしたい訳じゃない。ないったらないのだ。
「あら?最近の不機嫌な澪ちゃんはどうしたのかしら?やっぱり怖かったし、本当の澪ちゃんは甘えん坊さんだものね?」
「ち、違うもん!」
口ではそう言うものの、わたしはお母さんから離れることはせず久しぶりの対等以上の相手から感じる温もりを味わうのだった。
お察しかとは思いますが、この主人公色々と面倒くさいです。
とりあえず、次話は今後の方針なんかを決めていくんじゃないかと思います。