願い
―…将来の夢? どうしたのさ、いきなり。
いや、ふと思っただけだよ。皆もう何か考えているのかなって…。気になってさ…。
―…ふーん、特にないかな。願いならあるけど。
願い? 何?
―そういう君の願いはなんだい?
え、僕? そんないきなり言われても…。
―それ、君が言うかね?
ぐ…。そうだなあ…、○○さんと付き合いたい…とかかな。
―ほーう、青春だねぇ。まあ、知ってたけど。
うっそだろ! だ、誰にも言うなよ?
―えー、どうしよっかなぁ…。
おい!
―冗談だって。君のこと聞いた訳だし、次は僕だね。
―僕はね、死ぬことだよ。
…え?
―ははっ、面白い反応するね。まあ、安心してよ。自殺願望とかじゃないから。
……。
―僕はね、今まで一度も願いが叶ったことなんかないんだ。
一度も…?
―そう、一度も。君は知らないだろうけどね。まあ、話したことないから当然か。
―今までずっと期待しては裏切られ、欲しがっては手に入らず。その繰り返しさ。
―生まれたかった命、生まれてこなかった命になることもできたのに、僕は今生きているのであって。
―ならばせめて生きててよかったと思えることくらいあってもいいのに。
……。なんか、今すぐ死にそうなんだけど…。
―ははっ、そうだよ。そこで死だよ。
―死は平等だ。恐れても嘆いても、誰も逃れることはできない。
―だから僕は死を願うことにしたんだ。死はいつか絶対に訪れる。絶対に叶う願いさ。
―こんな人生でも、何度もやめたくなる人生だけど。生きて生きて生き抜いて、最期は願いがやっと叶ったんだって思って死にたいんだ。
……なんか、達観してるなぁ。
―捻くれているだけさ。
ふーん? まあいっか。じゃあその時は「願いは叶ったか」って聞いてやるよ。なんてね。
―わー生意気ー。自分のが長生きする前提だぁ。
―でも、ありがとうね。
その一週間後、彼は僕の目の前で死んだ。即死だったらしい。
彼の身体は信号を無視したトラックに飲まれたのだ。
運が悪かった。
彼の生は残酷にも奪われた。
助けに入る間もなかった。声も出なかった。
ただただ脳の理解が追い付いつかず、何もすることができなかった。
とっさに僕のほうを振り返った彼もきっと、僕と同じだっただろう。
でも彼は、はじめは驚いたような顔をし、
そして死の瞬間に静かに微笑んだ。
あれからもう10年が経つ。
僕は○○さんと結婚し、今では一児の父親だ。
僕の願いは叶ったのだ。
僕は成長した。
背は伸びたし、酒も飲める。
あの頃の僕はもういない。
でも、今になっても彼の最期が、彼の笑った顔が脳裏に焼き付いて離れない。
絶望や後悔を含んだ、悲しい静かな笑み。
あの瞬間だけは、僕はまだ15歳の僕なのだ。
……ねえ、君の願いは叶ったのかい?
僕は静かに彼に問いかける。
彼は答えない。彼はもう二度と答えることはない。
僕は静かに、目の前の大きな石の塊に目を落とした。
僕は一生君を忘れることは出来ないだろう。それでもいい。
いつか死ぬその時まで精一杯生きよう。
創作漫画で描いてみたい物をまとめたものです。
稚拙な文章失礼致しました。
ここまでご覧いただきありがとうございます。