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俗物水滸伝  作者: 孔明
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第10話  宋江、説得する 

告知し忘れていましたが、今後は告知するのが面倒くさいため毎日19:00に投下します。

 まず公孫勝が人払いの道術を発動させた。

 読んで字の如く周辺一帯に人が近寄らなくなる結界のようなものを展開する術である。すると林冲を取り囲んでいた兵士や野次馬たちは、急な用事を思い出したかのように散っていった。


「……あ?」


 突然自分を取り囲んでいた者たちが消えて林冲が不審がる。

 恐怖の余り逃げ出したか。そう思い兵士の背中を襲おうとした林冲へ、宋江たちが立ちふさがった。


「そこまでです。無為に暴れるのはそこまでにしなさい」


「高球の手下か?」


 林冲が蛇矛の矛先を向ける。

 大の男すら失禁するほどの殺気が放たれた。だが宋江は剣を抜きはしない。この男に向ける剣はないと思ったからだった。


「私があれの手下なんて酷い侮辱ですね。私は宋江、字を公明という官吏です」


「ほう、アンタがあの宋江かい。それが本当なら退きな。アンタの命には用はねえ。俺が殺したいのは高球の野郎だ」


「……貴方の妻のことは魯和尚から聞きました。一つ質問しますが林冲さん。貴方にとって高球の命と妻の命のどちらが重いですか?」


「なにを戯けたことを。あんな屑の命、一兆倍にしたところで妻の命に勝るはずねえだろう」


「なら……貴方のやることは高球を殺すことではなく、妻を救うことでしょう! こんなところで暴れてどうなるというんですかっ!!」


「!」


 小さな体躯から出たとは思えない、地を揺るがすほどの大喝。それが林冲の心を乱していた、憎しみという狂気を吹き飛ばした。


「そうだ。殺して奪い返すにしてもこんな真正面から殴りこむやり方じゃ女を救うどころか一人で野垂れ死ぬのがオチだ。こんな簡単なことにも気付かねえほど頭に血がのぼっちまうなんて情けねえ」


 林冲が蛇矛を降ろす。獣の形相から荒々しくも精悍な男の顔つきになった。


「理性を取り戻したようですね、林冲さん」


「ああ。妻が殺されたなら全てを捨てて仇をとるのも男の道だが、生きているならそれを救うために全てを投げうつべきだ。だがくそっ! こんな風に暴れたんじゃ逆に高球の思うつぼじゃねえか」


 武勇は張飛の如しと称えられる林冲だが、本来その性格は冷静にして沈着。滅多なことでは気を乱すことなく、正しい判断のできる男だ。

 落ち着いたことで高球の計略がどういうものか悟った林冲はうなだれる。


「まだ諦めるには早いぞ、林冲! 目的が目的だ、お前の妻はまだ生きている! 生きているなら助けられる!」


 そんな林冲の肩を掴んだ魯智深は、林冲を強引に立たせる。


「魯智深……」


「魯智深さんだけじゃありません。こうして会ったのもなにかの縁。貴方の奥方の救出、私達も協力しますよ」


「とりあえず林冲も魯智深も俺の家に来い」


 公孫勝は丁度北京大名府へ転勤のため引っ越し予定なので、家で雇っていた使用人も出払っている。潜伏するにはうってつけだった。


「すまねえ。恩に着る」


 林冲は重々しく頭を下げた。


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