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第9話 その4

 バラエティ番組の収録を終えた美穂と聖愛は、楽屋に戻り、私服に着替え始めた。

 この日の収録はVTRを見てスタジオでコメントを言う役割だったので、見せ場を作ることは難しかったが、それでもキレのあるコメントでスタジオを盛り上げていた。

 この二人の強みは、トークスキルが高いところにあった。

 美穂のトークはクラスメイトとの日々の会話の中で鍛えられた、流れや空気を読めるもので、聖愛のトークはテレビ番組を見まくった末に身に着けた、笑いを取りに行ったり、違う目線を示したりするものだった。

 そんな二人が、バラエティやトーク番組だけでなく、NHKのちょっと真面目な特集番組などにも呼ばれるのは、そのスキルからしたら当然のことだった。

 もちろんそれすらも聖愛が考案した生き残り戦略の一つだった。


 先に着替え終わった美穂は、まだ着替えている途中の聖愛にたずねた。

「予選のネタ、もう少し練習しておく?」

「そうですね。この部屋はまだ使えるのでしょうか?」

「ちょっとマネージャーさんに聞いてくる」

 美穂は楽屋を出てロビーで営業活動をしているマネージャーを探しに行った。


 「高校生お笑い選手権」には「ホワイトブレンド」も1次予選から出場することになっていた。

 主催者の五反田からは、決勝にはシードとして出場することが提案されていたが、聖愛は他に出場する高校生たちとフェアに戦いたいという意思を伝え、承諾してもらっていた。

(おそらくスポンサーや視聴率のことを考えたら、ホワイトブレンドが予選落ちすることはありえない)

(でも視聴者の中には、どんなに実力があろうとも出来レースだと思う人もいるはず)

(その人たちを納得させるためにも、ネタのクオリティで圧倒しなくてはいけない)

 そのため聖愛は、この大会のためだけの書き下ろしの新作で挑むことにした。


 忙しいスケジュールを縫っての新ネタ作りは、精神的にも肉体的にもハードだったが、聖愛にしてみれば、困難以上にやりがいを感じているのも事実だった。

 聖愛が目指しているのは、高校生の頂点ではなく、お笑い界の頂点。

 相手は高校生だけではなく、全てのお笑い芸人だった。

 そこに立ちふさがるであろうコンビはただ一組。

 悦司たちの「ゆーめいドリーム」しかいない。

 聖愛は決勝のステージで相まみえることを想像し、武者震いが止まらなかった。


 聖愛が両の頬を叩き、気合いを入れ直していると、すぐに美穂が楽屋に戻ってきた。

「この部屋、あと2時間ぐらいは大丈夫だって」

「それだけあれば、しっかりネタ合わせできますね。すぐに始めましょう!」

 聖愛は急いでバッグからスマートフォンを取り出し、動画の撮影をはじめた。


 予選開始まで残り1日。

 それぞれの想いを胸に、お笑い界の歴史に残る戦いが幕を開ける――

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