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第6話 その1

 気さくで明るい美穂と小動物のような可愛さを持つ聖愛。

 ありそうでなかった、これまでに見たことがないお笑いコンビの登場に、さっそくお笑い業界が食いついた。


 今、テレビの地上波には、主要キー局にそれぞれお笑いのネタ見せ番組がある。もっとも放送時間は深夜帯になっているが。

 その中には、全く無名の新人を起用する番組もあれば、今、ノリにノッてる若手芸人だけが出演する番組、ベテランから若手まで万遍なく出演する番組など、様々なバリエーションが用意されている。

 「ホワイトブレンド」はまず、全く無名の新人を起用する番組に呼ばれた。


 悦司はその番組を見ていなかったのだが、後に動画配信サイトにアップされた動画を見てみたところ、確かに新しさは感じたものの、ネタの精度はそこまで高くはなかった。

 ――もっとも作家もつけずに、この前まで素人だったクラスメイトがこれを考えたということには、驚かずにはいられなかったのだが……。


 それより驚いたのは、二人の「技術」だ。

 お笑いはコントにしても漫才にしても、ネタが全てと思われがちだが、実は間のとり方や声の出し方、体の動きなどの「技術」が面白さのほとんどを占めている。

 その証拠に、プロと同じネタを素人がそのままやったとしても、プロの1%も笑いをとれることはないだろう。

 「ホワイトブレンド」の二人には、その技術がすでに身についていた。


 その事実に気づいた悦司は、自室で悶々としていたが、思い切って美穂に電話をかけて聞いてみた。

「美穂、恥を忍んで聞くけど、あの技術はどこで身につけたんだ?」

「うーん、ホントはライバルだから教えたくないんだけど……」

「そこをなんとか!あとで甘いものおごるからさ!」

「それならいっか。忘れないでね」

「もちろんだ。で、どうやって身につけたんだ?」

「あれはね、全部聖愛ちゃんが教えてくれたんだ」

「聖愛?そうなのか!?」

 悦司はまだ聖愛本人に会うことはできていないのだが、美穂の話を総合すれば、そのセンスは本物だ。かなりの深度までお笑いを研究していることは間違いないようだ。

「聖愛ちゃんは、漫才とかコントとか吉本新喜劇とか、いろいろお笑いを研究しているのもそうなんだけど……他にもお笑いに応用できるものがあるって言ってたんだ。特にツッコミの私にね」

「……なんだそれ?」

「ひとつだけアドバイスしてくれたのは『ツッコミは剣道を意識して』ってこと」

「剣道?」

「ふふっ、これ以上は教えてあげない」

 美穂は電話を切った。

(剣道を意識する?)

 悦司はツッコミと剣道の共通点を考えてみた。

(なるほどな。「静から動への切り替え」と「反応する速度」ってところか……)

 この悦司の考察は、聖愛の意図とそう離れてはいなかった。

「……これは想像以上に手強そうだな」

 武者震いをした悦司は、机に向かい、自分たちのネタの見直しにかかった。


 ――美穂と聖愛は少しずつ学校を休む日が増えてきた。

 ところがこの学校では、芸能活動が認められているので、進級にはあまり影響がなかった。

 実は悦司も芸能活動が認められているということで、この学校を選んでいた。

 学校側としては、むしろ「学校名を出してもいい!」というぐらい、乗り気だった。

 そもそも私立高校なので、知名度を上げて生徒を増やしたいという狙いのもあるのだろう。


 数日後。この日も深夜番組に「ホワイトブレンド」が出演していた。

 前に出た新人発掘番組ではなく、若手芸人が集まるネタ番組だった。

 最も勢いがある若手芸人たちが集まるこの番組で、存在感を示すことができれば、その実力は本物だろう。

 そういう意味では、見た目だけでなく、お笑い芸人としての本質が問われる機会になる。


 悦司はテレビの前に椅子を置き、じっくりとそのネタを見ることにした。

 幾組かの若手芸人が登場した後、いよいよ「ホワイトブレンド」がネタを披露する番がやってきた。

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