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第3話 その3

 お笑いコンビのネタというのは、多くの場合、どちらかがベースのネタを考えてきて、それを二人で演じながらまとめ上げていくのがセオリーになっている。

 ところがこの急造コンビの場合、片方が全くの素人なのでそのセオリーも当てはまらない。

 悦司はネタを考えるのはもちろん、演出面でもリードしなければならなかった。

 さらに「コント」がいいのか「漫才」がいいのかなど、考えることが山積していた。

 オーディション当日まで残された時間は二日。身震いするほどの短い残り時間の中で、人前で披露できるところまでいけるのか?

 ――それはまさに絶望的で無謀な挑戦だった。


「おはよう!真幌!さっそく考えてきたぞ!」

 悦司は教室に入るなり、一目散に真幌の元へ駆け寄った。

「へぇ、もう考えたんだ。さすがだね」

「なんかいろいろ思いついちゃってさ」

「それはすごいけど、わたし初心者だよ。いろいろ思いついても……って感じなんだけど」

「そりゃできることとできないことがあるのはわかってる。だから今この限られた時間の中で最善の手を打たないとダメなんだ」

「んで、その最善の手とやらはできるの?」

「もちろん!そこがオレの腕の見せどころだよ」

 悦司はバッグからノートを取り出し、ネタの説明を始めた。


 すでに登校していた美穂は、友人たちの輪に入りながらも、目で二人の様子を窺っていた。

 その視線に気付いた友人が、笑いながら美穂を冷やかした。

「ねぇ美穂、寂しいでしょ?旦那がぽっと出の子に持っていかれて」

 美穂は笑顔で即答した。

「ふふっ。大丈夫だよ。私は振り向いてもらえる方法を知ってるから」

 美穂は自信に満ちた表情でそう断言した。


 昼休みになるとすぐに悦司は真幌を連れて、中庭のベンチに向かった。

「ちょっと待ってよ。わたし、お昼ごはん食べたいんだけど」

「大丈夫。オレがコンビニでいろいろ買ってきておいたから。話ながらやろう」

「ならいいけど、野菜は買ってある?わたしカロリー低めのものしか食べないよ」

「おいおい!この前カレーうどん食べてたやつが何言ってんだ」

「だってカレーうどんには野菜が入ってるじゃない!」

「どんだけ微量だよ!ポテチの中身ぐらい微量だな!」

「あー、わかるー、ポテチって袋に比べて中身が少ないよね~」

「わかったから、ポテチはもういいから、脱線しないで早くネタを決めよう」

「はいはい。急ぎますよ~」


 ネタの大枠はこうだ。

 ――スクールカーストの上位にいると言い張っている女子に、陰キャ男子が第三者目線でつっこんでいく。

 その女子のズレ具合と、陰キャならではのツッコミが笑いどころのネタだ。

 二人はベンチに座り、コンビニのおにぎりを食べながら、ネタの打ち合わせを始めた。

「最高のネタではないけど、これならオーディションは通過できると思う」

「え~、わたし最高のネタ以外はやりたくないんだけど」

「お前にそんなことを言う権利があるのか?」

「あるよ。相方だもん」

 真幌は昨日言ってた“共犯者”ではなく、あえて“相方”という言葉を口にした。

「まぁ、確かに……」

「せっかく相方になったのに、わたしのこと認めてくれないんだ」

「そ、そんなことは……」

「え~!顔は認めてくれてるみたいだけど」

 真幌が“相方”という言葉を使ってくれたことで、かなり嬉しかった悦司は、これまでにない笑顔を見せていた。

 おにぎりを食べ終わった真幌は、ゴミを片付けながら話を続けた。

「でもさ、現実問題、残り時間とわたしのスキルを考えたら、最高を求めるのは無理だよね」

「なんだよ、ちゃんと現状は把握できてるんだな。もっと夢見がちな暴走タイプかと思ってた」

「ちょっと!わたしが今までどれだけ“ボッチスキル”高めてきたと思ってんの?」

「えっ?あれって自主的にやってたのか?」

「そうだよ。本当はみんなと仲良くできるけど、自主的に、自分を追い込んで、客観的に自分の置かれた状況を把握してたんだよ。『あー、今、わたしボッチだなー』『この流れ、ぜったいに私がハブられんなー』って」

「そっか。だから意外と空気が読めるんだな」

 悦司は饒舌に自分語りをする真幌を面白がっていた。

「そうなのそうなの。しかもこのスキルはね、班決めとか、体育の準備運動とか、バスの座席決めとか、誰かの誕生日会の前とか、そういう時には必ず発動させることができるの。『人数合わなそうだな。だったらわたしがハブられてやるか』って自分からね。自分から発動させてるんだよ」

「も、もういいから。それ以上言わなくていいから……」

 ここで何かに気付いた悦司が、急に大声を出した。

「おい!また話が脱線してるじゃないか!」

「へへ、ごめんごめん。なんかさ、普段誰とも話してないから止まらないんだよね」

「でもそんなにおしゃべりなのに、なんで友達がいないんだ?」

「うーん、なんかさ、話が合わないんだよ。人の噂とか悪口とか、ぜんぜん好きじゃないんだ」

「まぁそういうこと言うやつもいるけど、みんながみんなそうじゃないだろ」

「それはそうなんだけどさ。わたしはもっとスケールの大きい話をしたいんだよ」

「例えばどんな話?」

「『世界中の人たちに名前を知られたい!』とか『わたしのおかげで世界が平和になってほしい!』とかさ」

「確かにスケールが大きいな。ただそのスケール感についていける女子高生は、この学校どころか日本にもいないだろうな」

「でしょ。だからあんたには期待してるんだよ」

「まぁ、期待に応えられるように頑張ってみますよ」

 二人はまた話が脱線していることに気付いていなかった。

 この後も会話が逸れに逸れまくったところで、無情にも昼休みが終わるチャイムが鳴り響いた。

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