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夏の夢、花火と君と描く恋  作者: Rain(´・∨・`)
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エピローグ


「……ねぇ、文綾……」


 その声は、震えていた。

 僕は、何も言えないままその言葉を聞いていた。


「私、ね? こんど、親の仕事の都合で海外に引っ越すことになったの……」


「………………」


 唐突な言葉に、僕は頭が真っ白になった。

 数秒置いて、ようやく僕は口を開いた。


「それで? いつ出発すんの?」


「お盆が終わったらすぐだよ……」


「そっか」


 その後しばらく、静寂が僕らを包んだ。

 本当は行って欲しくないのを、なぜ僕は言わないんだ。

 ……そうか、怖いんだ。

 その思いを口にすることが、怖いんだ。

 この、臆病者め。

 今になって初めて気がついた。

 僕はとんでもない臆病者だ。

 卑怯者だ、愚か者だ。

 こんな僕に、何も言う資格はない……。

 聞く資格もない。

 だから、聞こえないふりをした。


「だからさ、待ってて欲しいんだ。この場所で、この日のこの時間に。きっと帰ってくるから、待ってるって、約束して欲しいの」


「…………………………」


「でね? そしたら、君が、私をどう思ってるのか聞かせてよ。お願い……!」


 折れたのは僕だった。

 指切りをして、約束を交わす。


“きっと戻ってくる”


“戻ってきたら気持ちを伝える”


 そう約束して、僕らは別々に家へと帰った。

 そしてその日、姉さんの最後のアドバイスを聞いて、僕は絵を描くことに没頭した。


──花火大会を見に行くこと。それも、1番大切な人と。きっと、私のアドバイスを聞いたあとならこれは普通にしてるだろうからもうひとつ。自分が描きたいと思う絵を描きなさい。何を言おうが、結局はその心次第で全部変わる。なぜなら、私の弟だから。世界で1番絵が大好きな、私の弟だから。だから、貴方が1番描きたいものを描けば、貴方はその絵が一番好きになるでしょう?──


 姉さんらしいアドバイスだった。

 だから僕は、大好きな人を、大好きな絵に描こうと思った。

 そして完成したその絵は、僕がスランプを抜け出すきっかけとなり、最初で最後の恋となった。

 あの日を境に、僕はどれだけ、“強くなれた”だろうか。

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