冤罪にかけられて有罪だそうです。
「それでは判決を言い渡します」
厳粛な雰囲気で進められた裁判もついに大詰。
泣いても笑ってもこれが最後と言わんばかりに、ひげを蓄えた裁判長が決定を下す。
「汝、宮廷魔術師長ウィルクラフト・マーリン、有罪!」
言い渡された判決は有罪。
数々の証拠を前に、被疑者はぐうの音も出ないのか、わずかに震える体を押さえつけるかのように、荒い息を吐きながら言った。
「裁判長、五分ほど発言の許可をいただきたい」
何か言いたいことがあるのか、すでに判決は下ったとはいえ、その程度の融通は、これまでの彼の功績を鑑みて許すべきだろう。
裁判長はそう判断した。
「いいでしょう。静粛に!静粛に!」
終わった裁判が続くことににわかに騒がしくなりかけた室内が、その一声で再び静寂を取り戻した。
「黙って聞いておったがの。証拠証拠とくだらない。本当にくだらない」
本当に心の底からあきれ返ったように、深い深いため息をつきながらその老人は言った。
「くだらないとは何だあなたの悪事はすでに白日の下にさらされたのだぞ!国王暗殺未遂という大罪がな!」
大声を上げたのは、彼の補佐をしていた魔術師のブルータス。
裁判が終わっているからか、裁判長はこれから始まるであろう口論に対して静観の構えだ。
「ばかもん!わしがそんな証拠なんぞ残したうえで失敗なんぞするか!もっとうまくやるわい!むしろ証拠とかどうやったら残せるんじゃアホが!」
「アホとは何だ!実際に証拠が残っているだろう!あなたが暗殺者に指示を出した手紙がな!」
「だからあほじゃと言うに。なんで他人を使わねばならん。自分でやったほうが確実じゃろうが。わしなら今この時にだろうと国王ぐらい暗殺できるわ!証拠がないことが証拠みたいなトンデモ理論で有罪にせんか馬鹿め!」
「そんなことができるわけはない!この場所や王宮のように重要施設は魔法が使えないように結界が貼ってあるのだからな!」
「ふんっ」
騒いでいた彼の腰から下は、氷に包まれ身動きが取れなくなっていた。
黙って口論を聞いていた他の者たちもこれには驚いた。
「まったくその結界を構築したのが誰じゃと思っていたんだか」
おのれの補佐官であったものに、ほとほとあきれ返るしかない。
「大体動機はなんだという。わしはすでに七十も越えて、地位としては最上級まで上がったわい。今更野心もくそもあるか。国王とも普通にダチじゃし、恨みがあるなら殺したりせずもっとネチネチ追いつめる。むしろ普段からストレスたまったらやっとる。王位を狙うとか逆にどうやると狙えるのか、狙うことになんの価値があるのか、ほとほと疑問過ぎて意味が分からん」
言われてみればそうだよなあ。聴衆も間違いなくそう思った。
巧みな話術で、そんなことを気にしてもいなかった。
証拠があったことも、理由の一つだろう。
筆跡からして本人のものとしか思えず、指紋なんかもべったりな手紙。
あとは実行犯からの情報。
「要するにわしが邪魔じゃったんじゃろ。後輩が育ってわしの補佐からも外しそうだったしの」
「私が犯人だとでもいうつもりか!」
「他にいないからの」
「ふざけるな!大体貴様はすでに有罪だ!それが覆ることはない!」
「それが実はあっさり覆るんじゃよな」
これには裁判長も驚いた。えっなんですと。
「わしがこの国に遣えるときに、契約したからの。わしは法律では裁けんわい。超法規的措置が常に適用されるからの。これはわしがやめてからも、国王が変わっても遵守される契約じゃ」
「そんなふざけた話があるか!」
「玉璽が押された書類がある上に魔法的な契約もしているから、反故にはできないのお」
「というわけでお前はクビじゃ。物理的にな」
「ひぃい」
そう言って杖を一振りすると、黒いわっかのようなものが彼の首に装着された。
「それが解けるようなら許してやるが、三日で首が飛ぶから人の迷惑にならないところで死ねよ。ではな」
「まっ」
そしてその場からどこかへ転送されていった。
「あのおー賢者殿我々の処分はその……」
「わしは心が広いからのー。ロイヤル吸ビーフ一頭分と、カマンベール地方の20年物のワインで手を打ってやろう」
「ありがとうございます……」
「ほっほっほっほ」
そして、数々の偉業を打ち立てた生ける伝説は、高笑いしながら去っていった。
のちに暗殺未遂された国王はこう語った。
「意識不明だった理由?あのジジイがちょっと面白いことになりそうじゃと、眠らせていったからだよ」
「大体あのジジイが守っている王宮内で俺が死に目に会うわけないだろう」
「あっなにお前。あのジジイの伝説知らないのか」
「そうか、幸せに生きてきたんだな」
「貢物の要求?そんだけで済んだとは運がいい奴だな。うらやましい……」
かくして、ジジイが守る王国は今日も平和だった。