入学式1
首めがけて剣閃が迫る。
黒岩健人はそれを地面に転がるようによけると斬りかかってきた相手を見る。
赤髪の女の子はこちらを睨みながらイラついたように言う。
「逃げてないで早く斬られなさい!」
こんな状況だからか健人は思う、「どうしてこうなった」と。
ここは、国立仮想軍人育成学園横浜校
名前から分かるように仮想空間内での軍人を育成するため設立された学園である。
機密を守るため分厚い外壁に囲われたそれは一つの要塞に見える。
そこは、例外を除き厳しい試験によって入学を認められたものしか中に入ることは出来ず、入ることが出来れば将来が約束される場所でもある。
そんな場所の正門前に健人はいた。
「今日からここに入学か…したくないな。」
健人はそう呟くと重い足取りで正門に向かう。
「新入生は順番に入学許可書を提示して中に入ってくれ。」
軍服をきた強面の受付が大きな声で言う。
その声に反応して他の新入生たちは順番に白い許可書を見せ、次々と校門をくぐっていく。
健人はその新入生の列に並ぶと前の方が騒がしくなる。
前方を覗くと赤い髪の女の子が赤い許可書を見せている。
「ち、あいつ招集者か」。
「簡単に入学出来てうらやましいな」。
「すげ~どんな技能持ちなのかな?」。
それを見ていた新入生たちが言う。
そんな光景を赤髪の女の子は一瞥し中に入っていく。
【招集者】
それは優れた技術や技能があるものを取り入れるため国が選定した人に送る赤い入学書を持つ者のことだ。
この紙が送られてくると入学することが強制され、周りからは妬まれる存在であるとともに優れた技能を持つため尊敬される存在でもある。
健人はそのことを思い出し一つ溜息を吐く。
「あの子も大変だな。」そう呟くと、「そうだな。あんなに騒ぐ必要なんてないのにな。」と後ろにいた男が声をかけてきた。
健人は驚いて振り向くと男は「悪い、驚かせたか。」といいながら謝ってきた。
「いや、気にしなくていい。えっと…」
「浅野良太だ、いやまさか俺と同じようなことを考えてるやつがいるとは思わなかったよ。」といいながら握手を求めてきた。
「黒岩健人、健人でいいよ。そうだな、僕も思わなかったよ。」
そう言って握手にこたえる。
「そうか健人か、俺も良太でいいよ。」
良太は笑いながら言う。
「それにしても周りの奴らは好き勝手言ってるな。招集者だって招集者なりに苦労してるはずなのによ。」
良太は前の方の騒いでいる人たちを見ながら言う。
「まぁ、羨む気持ちもわかるけど、そこのところを理解している人が少ないってことだよ。」
健人も前を見ながら言う。
そうやって話をしていると良太は思い出したように言う。
「そういえば、今年の招集者は二人いるって噂を聞いたんだけどもう一人はどんな奴なんだろうな」。
それに対し健人は「もうそんな噂が流れているんだ。でも、どんな人だろうね?」
その後も良太と雑談しながら並んでいると健人の順番が来た。
健人は良太との会話を切り上げ、受付だけに見えるように許可書を見せる。
その赤い許可書を。